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[5月26日・千秋楽]
友風○-(押し倒し)-●佐田の海

 西前頭9枚目の友風と西前頭13枚目の佐田の海の7勝7敗対決となった一番は、友風が押し倒しで勝ち、勝ち越しを決めました。

 前頭9枚目の友風にとっては、7勝8敗・ひとつの負け越しであれば、十分に幕ノ内に残留できますし、大きく番付を落とす可能性も小さいのでしょうけれども、ここでは「勝ち越し」がとても大きな意味を持ちました。

 何しろこれで、「初土俵以来13場所連続勝ち越し」となったのですから。

 いわゆる「連続勝ち越し記録」ということであれば、元横綱・武蔵丸の55場所連続が大相撲におけるNO.1記録であることは良く知られていますが、それは「強くなってからの勝ち越し記録」なのです。

 初土俵からの連続勝ち越し記録というのは、なかなか見られないものでしょう。

[友風の初土俵からの連続勝ち越し記録]
・2017年7月場所 東序ノ口25枚目 7勝0敗(序ノ口優勝)
・2017年9月場所 東序二段15枚目 6勝1敗
・2017年11月場所 東三段目53枚目 7勝0敗(三段目優勝)
・2018年1月場所 東幕下31枚目 5勝2敗
・2018年3月場所 東幕下18枚目 4勝3敗
・2018年5月場所 東幕下13枚目 4勝3敗
・2018年7月場所 東幕下10枚目 5勝2敗
・2018年9月場所 西幕下4枚目 5勝2敗
・2018年11月場所 西十両11枚目 12勝3敗(十両優勝)
・2019年1月場所 東十両4枚目 10勝5敗
・2019年3月場所 東前頭13枚目 9勝6敗
・2019年5月場所 西前頭9枚目 8勝7敗

 まずは、故障・怪我等による休場が無いことが大前提となりますが、この点を友風はキッチリとクリアしています。

 続いては、「関取を目指す数多くの力士」と「再起を目指す元十両・元幕内力士」が犇めく幕下上位での戦いは、何時の時代も、どの力士にとっても、とても厳しいものなのですが、友風は2018年3月場所・5月場所を4勝3敗でクリアし、力を付けて、十両を僅か2場所で突破しています。
 この戦績を観ても、「幕下時代の頑張り・努力」が友風の礎となっているのは、間違いないでしょう。

 ちなみに、友風は「初土俵から11場所で新入幕」を果たしていますが、これは元大関・琴欧洲らと並んで「史上4位タイのスピード出世」です。
 尾車部屋所属の友風は、自らが関取になった(十両昇進)後も、部屋の先輩関取・嘉風の付き人をしていたことでも知られています。
 その尊敬する大先輩は「所要12場所」で幕内に進んでいますが、この先輩の記録を1場所上回ったことを、友風がとても喜び、「僕にとっての目標達成」とコメントしたとも報じられていました。

 幕ノ内力士として、友風が「新入幕以来の勝ち越し記録をどこまで伸ばして行ってくれるのか」が、とても楽しみですけれども、その点からも、2019年5月場所・千秋楽の佐田の海戦の「押し倒し」は大きな白星だったのです。

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 5月場所千秋楽、幕内2番目の取組は、東前頭11枚目の松鳳山と西前頭14枚目の炎鵬の、7勝7敗同士の対戦でした。

 いかにも千秋楽らしい、勝ち越しをかけた「7・7対決」となったのですが、この相撲が素晴らしいものでした。
 立合いから、両力士の攻めと守りが交互に繰り出され、両力士共に「危ないシーン」を何とか何度かクリアしながら、相撲が延々と続きました。

 四つ相撲では無いのに、相当長い相撲という印象。
 おそらくは30秒位の取組だったのでしょうが、途中からは、こうした「丁々発止のやり取り」が永遠に続くようにさえ感じられたのです。(感動を与えながら「永遠を感じさせるプレー」というのは、どんなスポーツにおいても好プレーでしょう)

 西土俵際で炎鵬が攻め立て、それを松鳳山が上手投げで返したところで、ようやく?勝負が付きました。

 場内は大歓声と大拍手の嵐・・・。

 千秋楽一番の「大相撲」でしたし、5月場所を通じても屈指の「大相撲」でしょう。

 身長177cm・体重137㎏の松鳳山と身長168cm・体重99㎏の炎鵬の取組は、幕ノ内力士の平均体重が160㎏に迫る現在であれば、「小兵力士同士の対戦」ということになりますが、「相撲の迫力は体の大きさだけでは決まらない」ことを如実に示してくれました。

 それにしても、炎鵬は9日目まで7勝2敗と好調な場所を展開していましたが、10日目からの6連敗で負け越しとなってしまいました。
 本当に残念な結果でしょう。

 しかし、千秋楽の取組はもちろんとして、毎日の取組の素晴らしさ、「エンターテインメントとしてのプロスポーツの質」という面からならば、炎鵬は現在の大相撲界屈指の力士といって良いのでしょう。
 大相撲ファンは、日々の炎鵬の取組をとても楽しみにしていることは間違いありませんし、炎鵬はその期待に本当に良く応えています。

 炎鵬の活躍は「2019年5月場所を見事に彩った」ものであると感じます。


[5月25日・14日目]
朝乃山○-(寄り切り)-●豪栄道

 西前頭8枚目の朝乃山が、大関・豪栄道を寄り切りで破り、2敗を堅持。
 結びの一番で、3敗で追っていた横綱・鶴竜が敗れて、朝乃山の幕ノ内最高優勝が決まりました。

 豪栄道との一番も、「前に出る力」を感じさせるものでした。
 豪栄道の本来の取口であれば、「数秒で勝負を決する」筈ですから、四つになって土俵中央で落ち着いた時には、朝乃山にも十分に勝機があると思いました。

 その後、豪栄道の攻勢を凌ぎ切って、最後は寄り切ったのです。
 
 堂々たる取口でした。

 朝乃山の優勝は、
 「三役経験の無い力士の優勝は佐田の山以来58年振り」
 「富山県出身力士の優勝は大正時代以来103年振り」と、歴史的なものとなりました。
 
 大相撲の長い長い歴史を感じさせる優勝でもあるのでしょう。

 それにしても、大連勝もするが、負け始めると大連敗もするのが持ち味?であった朝乃山ですから、いつその癖が出るのかと場所中心配していましたが、5月場所はついに取り切りました。素晴らしいことです。
 3月場所から5月場所の間の2ヵ月間に、何が有ったのかという気もします。
 今後の大活躍が期待されるところです。

 さて、このところ「誰が優勝してもおかしくない」場所が続いている大相撲ですが、令和最初の場所も、大混戦となって、「純粋なる平幕優勝」(変な書き方で恐縮です)となったのです。

 一方で、こうした混戦ながら14日目に優勝が決まったのも、少し不思議な感じがします。
 混戦なら千秋楽に縺れ込むのが自然でしょう。

 まるで、アメリカ合衆国・トランプ大統領の来場を控えて、千秋楽は「大相撲ファンがゆったりとした気持ち」で土俵を楽しめるようにと、相撲の神様が取り計らったようにさえ感じるのです。

 神事たる大相撲であれば、十分有り得ることでしょう。
 5月22日、大相撲5月場所で、実質的には「史上初」の残念な出来事が起こってしまいました。
 出場している横綱・大関・関脇が全て敗れるという事態でした。

① 阿炎○-(叩き込み)-関脇・栃ノ心●
② 竜電○-(上手出し投げ)-大関・豪栄道●
③ 小結・碧山○-(押し出し)-大関・高安●
④ 妙義龍○-(押し出し)-横綱・鶴竜●

 が、その事態です。

 もちろん、横綱・白鵬、大関・貴景勝、関脇・逸ノ城が休場していることから、関脇以上の力士の人数自体が4名しか居ない、少ないこともあるのでしょうが、それにしても一場所15日制が定着した1949年(昭和24年)以降、初めてのことというのは、「史上初」と言って良いと思います。

 ちなみにこの日は、小結・御嶽海も遠藤に敗れていますから、高安に勝った碧山以外の三役力士は全敗ということでもあります。
 
 場所の後半、11日目ともなれば「三役同士」の取組も増えますから、本来ならば「関脇以上の力士が全敗」という事態は仕組上発生し難い筈なのですが、三役力士の休場のタイミング等々の要因が重なったこともあって、こうしたことが発生する可能性が生じたのです。

 そうした種々の要因が有ったとはいえ、やはり横綱・大関・関脇が平幕力士に連続して敗れるというのは、「番付の重み」を考えると、とても残念なことです。

 「上位と下位の力量差が小さくなっている」、現在の大相撲界を象徴する事態なのでしょう。

 5月12日、東京・両国・国技館で開幕する、大相撲2019年5月場所の注目力士検討です。

 横綱・大関陣と関脇以下の力士の力量差がとても小さくなり、どの場所も、誰が優勝してもおかしくない「戦国時代」を迎えている大相撲界ですが、今場所も同様の状況がづいています。

 こうした状況下では「好調」な力士が活躍することになるのですが、その「好調」も場所が始まって「勢い」に乗るということが有りますので、場所前での予測はとても難しいことになります。

 さて、注目力士です。

1. 横綱陣

 白鵬と鶴竜ですが、共にベテランですので体調がポイントとなります。現時点では、出場の可否も分からない状態ですが、出て来れば、やはり白鵬の方が優勝に近いのでしょう。
 スピード主体の相撲は、全盛時に比べれば安定感にかけますが、相手の動きを観ながら、次から次に技を繰り出すスピードは、さすがに最強横綱の十八番です。

2. 大関陣

 貴景勝が新大関となりましたが、貴景勝とて関脇以下の力士と大きな力の差があるわけではありませんので、先輩大関との比較が難しいところでしょう。

 今場所は、初優勝を目指す高安に期待します。

3. 関脇以下の力士

③御嶽海

 もともと大関候補の先頭に居たのですが、貴景勝に先を越されました。期するものがあるでしょう。本場所に強い相撲を披露していただきたいものです。

④逸ノ城

 もともと地力ならば、関脇以下でNO.1ですので、気持ちがしっかりしてくれば大関は勿論、横綱も展望できる力士です。先場所からの好調を維持していれば、一気に大関取りもあるでしょう。

⑤阿武咲

 もともと三役の力が有る力士が故障からの回復過程にあります。3月場所は3勝1敗からスタートして、5勝10敗と大負けしました。5日目頃に故障を悪化させたのでしょう。2ヵ月間でどこまで回復しているかが鍵となりますが、相当に回復していると見ます。

⑥阿炎

 もともと「牛若丸相撲」と呼ばれ、前に出る相撲では無く、ひらりひらりと相手力士の力を交わしながら勝機を見出すタイプでしたが、このところ少し「地に足を付ける」取り口に変化して来ました。3月場所の前半は精彩が無く2勝7敗と追い込まれましたが、そこから6連勝で勝ち越すという、離れ業を演じました。強くなっていると感じます。

⑦魁聖

 もともと腰が悪く、コンディションが悪い場所は大負けする傾向が有りました。1月場所は12勝3敗、3月場所は3勝12敗と凄い上下動。今場所はコンディションが良いと見ます。

⑧志摩ノ海

 もともと十両で勝ち越し・負け越しを繰り返す存在でしたが、2019年1月場所・3月場所を連続13勝2敗として、十両連続優勝で新入幕を果たしました。2018年末から19年にかけて何が有ったのかと感じる「変貌ぶり」ですが、この「勢い」に期待します。

⑨遠藤

 もともと相撲の上手さでは角界屈指の力士です。一方で場所毎の成績のブレも大きなところが有ります。「密着相撲」という伝承していかなければならない技術のためにも、大関を目指していただきたいと思います。

⑩栃ノ心

 3月場所千秋楽の大一番に敗れ、残念ながら大関から陥落してしまいました。是非10勝以上の星を挙げていただき、復帰して欲しいものです。

 若手とベテランが入り混じった5月場所番付は、「平成」時代の力士と「令和」における活躍が期待される力士との競り合いという感じがします。

 素晴らしい土俵が期待されます。
 3月場所の土俵を湧かせた「2人の平幕力士」が、逸ノ城と碧山です。

 前頭4枚目の逸ノ城は、中日に栃ノ心に敗れましたが、それ以外は白星を並べ、14勝1敗と言う見事な成績。殊勲賞に相応しい相撲です。
 豪栄道、高安の両大関、貴景勝、御嶽海らの強豪力士を次々と破って行く姿には、「強さ」を感じました。先場所までの「ずるずると後退して」敗れるという相撲が全く観られなくなれば、巨体と重い腰が威力を発揮するのです。
 「次代の横綱」候補(大関以下の力士の中で、最も横綱に近い存在だと考えています)が、ようやく目覚めたのかもしれません。

 前頭7枚目の碧山も12勝3敗の好成績。敢闘賞に相応しい相撲です。
 「もりもりと前に出る相撲」が凄い威力を発揮したのです。
 もともと、好調な場所はとても強い力士です。過去2年間を見ても、2017年7月場所、前頭8枚目で13勝2敗、2018年11月場所、前頭11枚目で11勝4敗と、二桁白星を示現しています。
 碧山は「前に出る圧力が強い場所」では、三役と言うか、大関クラスの強さを魅せるのです。この相撲が継続できれば、まだまだ32歳と若いのですから、大関も十分に狙えると思います。

 逸ノ城と碧山は、現在の大相撲に欠かすことができない力士なのでしょう。

 千秋楽の栃ノ心VS貴景勝の取組の際に、NHK大相撲テレビ放送の解説者・舞の海秀平氏が語った言葉です。

 14日目まで7勝7敗の栃ノ心、3月場所カド番の栃ノ心が負ければ「大関からの陥落」、9勝5敗の貴景勝が負ければ「大関取りならず」の可能性が高い、一番という、本当に両力士にとって「絶対に負けられない戦い」となってしまったのです。

 三役揃い踏みからの流れで仕切りが続きました。
 そして立合い、両力士互角の立合いに観えましたが貴景勝の方が低かったので、もりもりと押します。
 栃ノ心は懸命にまわしを手繰りますが全く届かず、貴景勝が一気に押し出しました。
 「電車道」の完勝でした。

 堂々と当たって行った栃ノ心の取口も、この取組を盛り上げました。

 立合い前に、もうひとりの解説者・北の富士勝昭氏は、「栃ノ心は立合いに注文を付けるような力士では無い。そういう力士ではないが、あまりに重い取組なので『絶対に無い』とは言えない」とコメントしました。
 一気に出てくるであろう貴景勝に対しての「立合いの注文」は確かに有効に見えましたし、とにかく「勝てば良い」、内容は問わない取組、ある意味では「何をやっても許される」取組だったのかもしれませんから、栃ノ心が普段ならやらないプレーを行う可能性もあったのです。

 しかし、栃ノ心は堂々と立合い、貴景勝の当りを堂々と受けて、堂々と?押し出されました。(変な書き方で恐縮です)
 後世に語り継がれる「堂々たる相撲」であったと感じます。

 貴景勝はこの一番に勝って10勝とし、直近3場所の勝ち星を34勝としました。
 大関に推挙されるか否かは「勝ち星数」だけによるものではないことは当然のことですが、最新の場所が9勝と言うのでは「勢い」に欠けます。
 
 単に3場所33勝と言うのであれば、12勝・13勝・8勝でも良いことになりますが、おそらくはそうした展開では大関には推挙されないというか、検討の場、「まな板の上」に乗らないでしょう。
 
 そして、「勢い」を持って33勝をクリアした後には、「相撲の内容」が問われることとなります。
 その内容と言う面で、この千秋楽の相撲は100点満点でした。

 3月27日には、新大関・貴景勝が誕生することになります。

 2019年3月場所千秋楽の「栃ノ心VS貴景勝」は、立派な取組でした。

 元横綱・稀勢の里・荒磯親方が、NHK大相撲放送の解説に初登場しました。

 現役時代は無口な印象で、勝っても負けても「ぶっきらぼう」な感じでした。
 もちろん、この「ぶっきらぼう」な感じは、大相撲の力士に共通した物腰です。
 大きな体で、とても「強い存在」として、時には神事の対象ともなる「力士」が、ペラペラと喋るのでは、やや軽薄のそしりも免れないでしょうから、力士は無口というのが相場となっているのでしょう。
 これは日本文化の一端と言っても良さそうです。

 その無口な力士の典型であった荒磯親方が、テレビ放送の解説者としては、必要十分な言葉数でとてもしっかりとした解説をしたという評判です。
 確かに、聞き取り易い口調・言葉づかいで、引退したばかりの横綱として様々な情報や取組分析・評価を披露していました。
 横綱・白鵬が絶賛したとも伝えられている、立派な解説だったのです。

 大相撲の解説と言えば、21世紀においては北の富士勝昭氏が第一人者でしょうが、その北の富士氏も76歳ということで、「後継者」が待たれる状況です。
 
 今般、解説者デビューを果たした荒磯親方は、次代を担う大相撲解説者になれるものなのでしょうか。

 大相撲に限ったことではありませんが、スポーツのライブ放送の解説に必要な要素を考えてみましょう。

① ストック解説

 解説者自らの現役時代の経験を元に話を進めるやり方です。
 この日の荒磯親方の解説でも、現役を引退したばかりの親方として、自らの対戦相手としての各力士に付いて、その経験を活かした解説が数多く登場しました。

 例えば、阿武咲の取組の際には「阿武咲関は、肩甲骨が柔らかい。普通の力士より10cm・20cmは手が前に出るのではないか。今後の活躍が期待される力士です」と説明していましたし、嘉風の時には「嘉風関は相手力士の研究が凄いので、自分も良く話を聞きに行っていました」と解説しました。
 とても興味深い話が多かったと感じます。

 こうした「最高レベルのプレーヤーによる、自身の経験を元にした、具体的なコメント」というのは、一般の人や一般のメディア関係者には到底分からないこと、知らないことが披露されますので、豊かな内容の話になる場合が多いのです。
 「深遠な経験」を上手に説明されれば、多くの人が感心するのは自然なことでしょう。
 いつも書くことで恐縮ですが、「本物」は素晴らしいのです。

 話の内容のレベルが高いことはもちろんとして、それを平易に口述できることがポイントです。
 プレーヤーの頃から「よく考えて、事に臨んでいた」ことの証にも観えます。
 ただ闇雲にトレーニングをし、試合を戦っていたのでは、解説者としての責任を果たせるレベルの解説は、難しいのではないでしょうか。
 当然のことながら、「解説者になるための才能」が存在し、その才能を保持し、磨いて行ける人しか、長期間の解説者という仕事を全うすることは出来ないのでしょう。

 さて、話を戻します。

 この「ストック解説」は、それまで「知らなかったこと」が披露されるので、とても面白いのですが、ストック解説だけでは「長く解説者を続けることが出来ない」のも当然のことになります。
 「経験の在庫が尽きてしまえばストック解説が出来なくなる」からです。

 従って、「ストック解説」のみの解説者は、現役引退後しばらくの間は解説者としての仕事を熟すことが出来ますが、引退後1年・2年と月日を重ね、共にプレーしていた選手が居なくなると、その解説者も試合・番組において「面白い話」をすることが出来なくなってしまい、解説者としての引退?、早期の引退を迎えることになるのでしょう。

 現役引退後、10年以上の長きに渡って解説者を務めている北の富士氏などが、ストック解説以外の解説手法を身に付けていることは明白です。

② フロー解説

 ストック解説に対する、もうひとつの解説が「フロー解説」だと思います。(勝手に呼称を付けています)

 フロー解説は、眼前で行われているプレーに対しての説明です。
 「当該スポーツに関する高い見識」をベースに、ひとつひとつのプレーに対してコメントするのです。

 フロー解説においてポイントとなるのは、その解説内容が「視聴者・観戦者に理解される、納得していただける」ものであるかどうかでしょう。
 専門的な用語を駆使して、視聴者や観戦者に分かり難いコメントを並べるのでは、良い解説者とは言えないでしょう。ここが難しいところなのです。

 素人でも分かるような「初歩的な内容」では、視聴者・観戦者を唸らせることはできませんし、そんな当たり前のことを聞きたいと思っている人は居ない(別に解説者は要らない形)のですが、一方で、何を言っているのか分からないような複雑な話、分かり難いコメントというのも、プロの解説者としては回避しなくてはなりません。

 例えば、サッカー競技のゴールシーンで、そのゴールが生まれた要因、キーとなったプレーを的確に説明することが、フロー解説に求められるものとなります。

 この日の荒磯親方の解説は、自然なことながら、ストック解説が多かったのですが、フロー解説に繋がる解説もありました。
 例えば、高安の取組の時、「今場所は、腹の出方が良いので好調」であるとコメントしました。「腹の出方」というのは、上体の角度や腰の据わり方、筋肉の動き方等々によって、毎場所異なるもの、同じ力士でも毎場所異なるものであることを解説していただいたものだと思いますが、とても良い解説だと感じました。

 「腹に乗せて押し出した」といった解説は、これまでも耳にしたことが有りましたが、「腹の出方」というのは新鮮です。
 このコメントは、長い間一緒の部屋に居て、高安と日々の稽古を積み重ねてきた荒磯親方ならではの、荒磯親方でなくては知らない知識・経験をもとにしたものですので、広い意味ではストック解説なのでしょうが、それを現実の眼前の取組・取口に展開するとなれば、フロー解説の側面も持ち合わせていると考えます。

 もちろん、フロー解説といっても、自身の高度な知識・見識・経験をベースにして行われるものですが、それらを元に、視聴者・観戦者に「なるほど」と感じさせる解説にするためには、相応のノウハウが必要でしょうし、センスが不可欠なことは言うまでもないでしょう。
 解説の仕事を続けて行く中で、「こうした表現の仕方」が視聴者・観戦者に分かりやすくて「受ける」ことを学び、そのセンスを良い方向に拡大して行く努力が重要なことも言うまでもないでしょう。
 プロの解説者となるためには、日々の修練が必要なことは言うまでも無いことで、とても大変なことだと思います。

③ 軽妙な感想コメント

 上質な解説を行って行く上で、最も難しいのが「軽妙な感想コメント」だと考えます。

 例えば、北の富士氏の場合であれば、解説の合間に「いまのは良かったね」とか「これはダメでしょう」といったコメントが時々入ります。まさに「北の富士の解説」のアイデンティティと呼んで良いと思いますが、この「感想コメント」が視聴者・観戦者にとても受けるのです。

 こうした「軽妙な感想コメント」を積み重ねていく中で、通常ではなかなか言いにくいこと、批判的な解説も、自然に行うことが出来るようになります。
 例えば、「こんなに良い成績でも三賞が取れないの?協会もケチだね」といったコメントは、北の富士氏ならではのものでしょう。
 14日目を終えて10勝以上の白星を積み上げている力士が、三賞選考委員会の検討対象にも上らなかったことに付いて、北の富士氏としては不満が有るのでしょうが、それを軽妙に表現しています。
 もちろん、こうしたコメントはいきなり言っても違和感が有ると思います。「いつも言っている」から通るといった側面もあるのでしょう。長く解説者を務めているから言えることであり、一方で、こうしたコメントを言うことが出来るから長く解説者を務めることが出来るとも言えるのでしょう。

 そしてこの「軽妙な感想コメント」が、プロの解説者にとって最も難しいものであることは間違いありません。
 正確で分かり易いプレー解説を続けて行く中で、軽妙なコメントによって視聴者・観戦者をより楽しませる形、「解説のエンターティンメント性を高める手法」だからです。

 「軽妙な感想コメント」は、スポーツの解説者に求められる「最高峰の技術」として、特にプロの解説者にとっては不可欠な技能であろうと思います。
 今風に言えば「AIには難しい領域」なのでしょうから。

 大相撲2019年3月場所7日目の荒磯親方の解説は、とても興味深く、とても面白い解説でした。
 テレビ観戦を、より楽しいものにしてくれたのです。

 これからも時々、解説者として登場していただきたいものです。
 横綱・大関陣とその他の力士の力量差がとても小さくなり、世代交代への胎動が大きくなっている大相撲の、2019年3月場所が迫ってきました。

 関脇・貴景勝の大関取りの場所でもあります。

 大混戦の場所になる可能性が高く、幕ノ内最高優勝の行方は混沌としています。
 文字通り、幕ノ内力士の誰が優勝してもおかしくないと感じます。

 さて、活躍が期待される10力士です。

1. 横綱陣

 1月場所では、ひとりも15日間取り切ることができなかった横綱陣です。

 白鵬、鶴竜のどちらの方が調子が良いのか、ということになりますが、3月場所はやはり白鵬に期待したいと思います。「第一人者」としての意地を魅せていただきたいものです。

2. 大関陣

 栃ノ心の怪我からの回復度合いが気になります。豪栄道のスピードの衰えも気になるところ。

 3月場所は高安に期待しましょう。
 初優勝を目指す場所です。

3. 関脇以下の力士

③貴景勝

 「大関取り」は、3月場所最大の見所です。1月場所の千秋楽で勝っていれば、1月場所後の昇進もあった可能性が有るのですから、今場所決めたいところでしょう。
 「前に出る圧力」を忘れずに、伸び伸びと取っていただきたいものです。

④御嶽海

 故障が有ったのか、一時期調子落ちが感じられましたが、ようやく戻ってきたという印象です。自分の相撲が取れれば、優勝できる実力が有ることは証明されていますから、大活躍が期待されるところです。

⑤豊ノ島

 幕ノ内経験者が巣食う?十両を2場所で突破して「かえり入幕」を決めました。相当調子が上がっていると見ます。
 変幻自在な取口が披露できれば、二桁勝利も可能でしょう。

⑥友風

 こちらも、12勝、10勝と2場所で十両を突破しました。豪風引退の後、新しい「風・風コンビ」として嘉風と共に尾車部屋を牽引して行って欲しいものです。

⑦玉鷲

 もし3月場所で優勝するようなら、文句無しの大関昇進でしょう。
 「安定感十分の押し」で落ち着いて取っていただければ、今場所も優勝争いをする可能性があります。

⑧遠藤

 怪我からの回復が相当進んでいると見ます。「前に出るスピード」が完全に戻れば、持ち味の「密着相撲」が展開されることでしょう。「上手い相撲」を披露していただきたいものです。

⑨阿武咲

 1月場所は、6連勝から4連敗となって8勝7敗という不完全燃焼の場所でした。「疲れ」が出た様にも観えました。幕ノ内上位での戦いにも慣れたところでしょうから、3月場所での大暴れに期待します。

⑩朝乃山

 こちらは、5連敗からの3連勝となって8勝7敗という不思議な1月場所でした。強い時は物凄く強いが、弱い時はあっけなく負ける、というこれまでの相撲では無く、強い時の相撲を継続して欲しいものですし、そろそろそういう時期が来ているとも思います。

 3月場所は、以上の10力士に期待します。

 もちろん、この他にも、北勝富士や阿炎、矢後や豊山などなど、注目力士が目白押しです。

 とても面白い場所になりそうです。

 3月場所の新番付が発表されました。

 そして、幕内復帰が期待されていた豊ノ島が、1月場所の西十両5枚目から西前頭14枚目に上がり、見事に幕内に返り咲いたのです。

 2016年7月場所(名古屋)前の稽古でアキレス腱断裂の重傷を負い、9月場所にかけての2場所全休で幕下に陥落しました。この時すでに33歳でしたから、復帰は難しいのではないかとの観測もありました。

 ましてや、三役・関脇経験者が幕下で取るということについての「モチベーションの維持」も難しいのではないかと言われたのです。

 しかし、豊ノ島は2016年11月場所から土俵に復帰しました。
 稽古から遠ざかっていたこともあって、ここからの豊ノ島の「幕内への道程」は困難を極めました。

① 2016年11月場所 西幕下7枚目 4勝3敗
② 2017年1月場所 西幕下6枚目 6勝1敗
③ 2017年3月場所 東幕下2枚目 1勝5敗1休
④ 2017年5月場所 東幕下19枚目 3勝4敗
⑤ 2017年7月場所 東幕下28枚目 5勝2敗
⑥ 2017年9月場所 西幕下17枚目 4勝3敗
⑦ 2017年11月場所 西幕下13枚目 5勝2敗
⑧ 2018年1月場所 東幕下5枚目 0勝3敗4休
⑨ 2018年3月場所 西幕下35枚目 6勝1敗
⑩ 2018年5月場所 東幕下14枚目 5勝2敗
⑪ 2018年7月場所 西幕下7枚目 5勝2敗
⑫ 2018年9月場所 西幕下筆頭 6勝1敗
⑬ 2018年11月場所 東十両13枚目 11勝4敗
⑭ 2019年1月場所 西十両5枚目 10勝5敗

 特に、2017年の3月場所と2018年の1月場所は、いわゆる「幕下上位」の番付に居て、「関取復帰」を目指す場所でしたが、いずれも故障で休場して、大きく番付を下げました。
 2018年3月場所の西幕下35枚目という番付を見た時に、「引退」という言葉が頭をよぎったとしても何の不思議も無いでしょう。

 再び、しかし、豊ノ島は土俵に上がり続けたのです。
 この強い精神力が、豊ノ島最大の武器なのでしょう。
 奥様を始めとする、ご家族のサポートも大きな支えになったと報じられています。

 もちろん、豊ノ島自身に「回復すれば絶対に良い相撲が取れる」という「相撲への自信」もあったであろうと思います。

 そして、2017年3月場所以降は、次第に本来の相撲を取り戻し、2018年11月場所に「関取復帰」を果たすと、十両を2場所で突破しました。
 自分の相撲が取れるようになれば、やはり強いのです。
 十両における、2場所連続二桁勝利は、地力の高さの証明でしょう。

 さて、35歳のベテラン力士とはいえ、本来の相撲を取り戻した豊ノ島は、西前頭14枚目でも「強い」と予想されます。

 3勝10回(殊勲賞3、敢闘賞3、技能賞4)、金星4個(白鵬1、日馬富士3)の強者が、幕内の土俵に帰ってきました。

 若手が躍動する土俵における「ベテランの縦横無尽の活躍」が期待されます。

 2019年1月場所では、横綱・大関陣の不振が目立ち、新しい大関が待望されている状況でしょう。

 今回は「大関」についての雑感です。

 「大関」は明治時代の中頃までは、大相撲の最高位でした。
 その後「横綱」が設けられたのですが、少なくとも昭和時代の中頃までは「横綱大関」という呼称が広く用いられていたと思います。
 つまり「横綱」というのは、「大関の中で特に選ばれて綱を張ることが許された力士」という扱い、「大関の一種」という扱いだったのでしょう。そういう意味では、その頃まではやはり「大関」が、最高位だったとも言えます。

 いつ頃からは、はっきりしませんが、「横綱大関」という言葉が使われる頻度が下がり、「横綱」と呼称されるようになったと記憶しています。

 さて、近時時々耳にするのは「優勝していない大関」という言葉です。
 「大関という高位に居ながら優勝経験が無い」ことを指して言うのですが、「大関ならば優勝していて当然」といったニュアンス、マイナスイメージも感じられます。

 この言葉が何時ごろから使われるようになったのかは分かりませんが、おそらくはごく最近、2~3年以内の話であろうと思います。

 何故なら、「優勝経験の無い大関」は大相撲の歴史上そう珍しいものでは無く、過去に何人も居ますし、21世紀に入ってからも、優勝するまでに長い時間を要した大関は数多く居るので、「大関ならば優勝していて当然」という見方が、例えば2015年頃までに存在したとは思えないからです。

 例えば、元横綱・稀勢の里が初優勝したのは2017年1月場所で、大関になって31場所目でした。
 大関・豪栄道が初優勝したのは2016年9月場所で、大関になって13場所目、元大関・琴奨菊が初優勝したのは2016年1月場所で、大関になってから26場所目でした。
 少し遡って、元大関・琴欧洲が初優勝絵したのは2008年5月場所で、大関在位15場所目。
 また、初代・貴ノ花が初優勝したのは1975年3月場所で、大関在位15場所目でした。
(以上の5大関は関脇までのキャリアで優勝していませんでした)

 これを現役に当て嵌めてみると、大関・高安は2019年1月場所時点で、大関在位10場所目ですので、たとえ優勝していないとしても「決して遅くは無いし」「不思議なことでも無い」ことは明らかです。

 高安を指して「まだ優勝していない大関」といった非難めいたニュアンスが感じられる評価は、当たらないのでしょう。
 大相撲の事を良く知らない人の言葉であろうと思います。

 現在、大関は豪栄道、高安、栃ノ心の3力士です。
 そして、御嶽海や貴景勝の昇進が期待されているわけですが、この2力士が大関に昇進すると「5人大関体制」となり、多過ぎないかといった懸念を持たれる方も居るかもしれませんが、心配ご無用です。

 過去には「6人大関体制」の場所も存在しました。それも2010年以降という、つい最近の話です。
 2012年5月場所は、日馬富士、鶴竜、稀勢の里、琴奨菊、把瑠都、琴欧洲の6力士が大関でした。この場所後、日馬富士が横綱に昇進して、「6人体制」は崩れたのです。
 
 「5人大関体制」となれば、これは20世紀から何度もありました。
 少し例を挙げましょう。

[1961年7月場所]
北葉山、大鵬、柏戸、若羽黒、琴ヶ濱

[1963年3月場所]
豊山、栃光、栃ノ海、佐田の山、北葉山

[1972年11月場所]
貴ノ花、輪島、大麒麟、清国、琴桜

[1977年3月場所]
若三杉、魁傑、旭国、三重ノ海、貴ノ花

[1983年7月場所]
北天佑、朝潮、若島津、隆の里、琴風

[1987年7月場所]
小錦、大乃国、北天佑、朝潮、若島津

[2000年11月場所]
武双山、魁皇、雅山、出島、千代大海

[2002年9月場所]
朝青龍、栃東、武双山、魁皇、千代大海

[2006年5月場所]
白鵬、琴欧洲、栃東、魁皇、千代大海

[2009年1月場所]
日馬富士、琴光喜、琴欧洲、魁皇、千代大海

[2012年1月場所]
稀勢の里、琴奨菊、把瑠都、日馬富士、琴欧洲

 これらは「5人大関体制の」一部の例です。
 他にも有るのですから、「5人」は珍しいものではありません。

 これらの例を見て共通しているのは、多くの大関が存在する状況においては、「横綱に昇進する力士」がその中に含まれている場合が多いというところです。

 「5人体制」には、ベテラン大関と若手大関が併存し、切磋琢磨して「次代の横綱」が育っているということなのでしょう。

 「雑感」ですから、話があちこちに飛んで恐縮です。

 頭書の話に戻ると、貴景勝や御嶽海がどんどん大関に昇進しても、何ら心配ないということなのでしょうし、大勢の大関の中から横綱が生まれる可能性が高いということなのかもしれません。
 また、関脇までの間に優勝している必要など全く無いので、直近3場所33勝を目指して、他の力士も存分にトライしてほしいものです。
 もちろん、勝ち星の数ばかりが問題では無いのは当然のことで、大切なのは「『大関』に相応しい相撲が取れるかどうか」の一点なのであろうと思います。

 現在の「若手力士」には、大きなチャンスの時期が来ているのでしょう。
 1月場所は関脇・玉鷲の優勝で幕を閉じました。
 もうひとりの関脇・貴景勝との終盤の優勝争いは、見所十分であったと思います。

 一方で、横綱・大関陣の不甲斐無さも目立ちました。

 横綱陣は、稀勢の里が4日目から休場し5日目に引退を表明、鶴竜が6日目から休場、孤塁を守っていた白鵬も14日目から休場と、3横綱共に千秋楽を迎えることすら出来ませんでした。

 大関陣は前半の相撲が悪過ぎました。
 栃ノ心は5日目から休場、高安は中日までで4勝4敗、豪栄道は中日までで3勝5敗と、番付が下位の力士に大苦戦。もし横綱陣が健在であったなら、「3大関が同時に3月場所でカド番」という悲惨な事態さえあり得たのかもしれません。

 当然ながら、ベテラン力士で構成されている横綱・大関陣ですが、近時の「衰え」は隠しようが無い状況でしょうか。

 千秋楽の協会挨拶に登場する三役力士の人数が、2018年11月場所が5名、2019年1月場所が6名というのでは、寂しい限り。

 友人から「引退が進むから、しばらくすると横綱・大関陣は高安ひとりになるよ」と言われても、そんなことはないと笑うことも出来ないのです。

 横綱・大関陣崩壊の中で、1月場所の幕内最高優勝を争ったのが「両関脇」であったのは、番付から見れば自然なことであり、「番付の重み」を辛うじて維持した結果の様に観えます。

 大相撲界にとっては、「若くて元気の良い大関・横綱」の登場が、待望されているのです。

 御嶽海や貴景勝の活躍、速やかな大関昇進を期待しているのは、ファンだけでは無いのでしょう。

 大相撲2019年1月場所・千秋楽、玉鷲は遠藤を突き落としで破って13勝2敗とし、優勝を決めました。
 今場所の「突き押し」の威力を見せつけた取口でした。

 玉鷲の優勝は、初土俵から「1151番連続の出場」の上に、燦然と輝くものでした。
 怪我・故障に強いというか、ほとんど大きな故障を発症しないという、強い体と故障し難い取口、そして日々の稽古の賜物と言って良いでしょう。

 「15年間に渡って本場所の土俵に上がり続けている」というのは、休場力士が目立つ昨今においては、一層輝かしい事実です。

 もともと安定感十分な力士であった玉鷲が、一段と強さを増したのは2015年1月場所からだと思います。この場所、東前頭9枚目で10勝5敗と二桁勝利を遂げた玉鷲は、同年3月場所に小結に昇進し、この場所は4勝11敗と大負けしましたが、その後は幕ノ内上位に定着、2016年11月場所に小結に返り咲くと10勝5敗で技能賞も受賞、2017年1月場所には東関脇となったのです。
 その後は関脇を4場所連続で務め、前頭上位・三役の常連としての活躍を続けてきました。
 そして、今場所の優勝に結びつけた形です。

 今場所の取口で目立ったのは、「左右のおっつけ・いなし」でしょうか。
 真っ直ぐに押すだけでは無く、押しが止まった時には、相手力士を左右に揺さぶったのです。
 威力十分な押しに、左右の動きが加わることで「取口に幅ができ」、相手を崩す手段となりました。

 表彰式における「優勝力士インタビュー」では、玉鷲の「人柄の良さ」が伝わりました。
 朴訥と、自慢することなど微塵も無く、インタビューに応じる姿には、力士が本来身に付けているべき「優しさ」が溢れていました。

 「気は優しくて力持ち」という言葉が有りますが、まさに玉鷲の為にあるようなフレーズであると感じます。

 34歳2か月と遅咲きの優勝でしたが、まだまだ体は若いと報じられていますので、大関を目指して取ってほしいと思います。

 何かを成し遂げようとするのに、必要な心身のスキルさえあれば、年齢など全く関係ないのですから。

 1月22日、元関脇・豪風が引退を決意したと報じられました。

 今場所、東十両12枚目の番付に居る豪風は、9日目まで1勝8敗と負け越しが決まっていました。9敗すれば幕下への陥落が濃厚と見られていた中での「引退決意」でした。
 10日目からは休場する見込みとのこと。

 秋田県出身(金足農業高校出身で昨夏の甲子園大会でも話題となりました)、中央大学から尾車部屋に入門し2002年夏場所に幕下15枚目付け出しで大相撲にデビューしました。

 突き押し相撲ですが、何より「素早い動きから勝機を見出す取口」で多くのファンを唸らせました。
 観ていてとても面白い相撲です。
 まさに「プロプレーヤー」であり、「大相撲に欠かせない存在」でした。

 小兵ながら大物喰いという面から、同部屋の嘉風との「風・風コンビ」は、私が最も注目してきたコンビ?でした。(変な書き方で恐縮です)

 39歳まで関取を張ることができる力士は滅多に居ません。
 昨2018年5月場所で幕内に再入幕(38歳10ヵ月)したことは、見事という他はありませんでした。

 引退後は、年寄「押尾川」を襲名するとのこと。

 「第2の豪風」を是非育てていただきたいと思います。

 「1月場所が終了してからが力士のお正月」と言われる「初場所」が、1月13日から東京・両国国技館で開催されます。

 2018年の大相撲界は、本当に色々なことが有りました。
 栃ノ心、御嶽海、貴景勝の「初優勝」は、横綱の優勝が続いていた本場所に、新風を吹き込みました。

 他方、いわゆる「暴力・暴行」問題が後を絶たず、本当に暗い影を落とし続けました。この問題は、現在も継続していて、「大相撲の屋台骨を揺るがしかねない」重大事なのでしょう。

 そうした中、2019年の初場所が始まります。
 昔から大相撲をご覧になっている方々なら、直ぐに分かることでしょうが、初場所には他の場所に無い、何とも言えない「華やかさ」が有ります。
 着物姿の観客が多いとか、お正月の気分が続いているとか、理由は色々あるのかもしれませんが、「大相撲の開催と観戦」がひとつの「平和の象徴」であり、年頭の本場所に、「今年も大相撲が始まった」という雰囲気が、ここかしこに漂っているのではないかと感じています。

 そうした意味からも、本来「平和の象徴」であるはずの大相撲が、「暴力・暴行」の巣窟ということでは、話にならないという気がします。
 協会はもとより、ひとりひとりの力士が、大相撲の歴史やその社会的な位置づけを心に刻んで、日々の生活を営んでいただきたいと切に願わずには、いられません。

 さて、「新風」が吹き込んでいる大相撲界ですが、少し鳴りを潜めていた横綱陣も徐々に復帰してきました。
 新旧激突という図柄は、勝負ごとにおいて最も面白い時期ということにもなります。
 1月場所の注目力士を観て行きましょう。

1. 横綱陣

 やはり、稀勢の里の動向が最も注目されるところです。
 「進退を賭けた場所」になるのでしょう。

 もともと「全勝優勝」を目指すタイプの力士では無いと思いますので、序盤戦の取りこぼしなど恐れることなく、自らの豪快な相撲を披露していただきたいと思います。

 今場所は、稀勢の里に注目します。

2. 大関陣

 先場所、最後まで優勝争いを繰り広げた高安ですが、「2場所連続準優勝」ということになりますので、1月場所で優勝するようなら「横綱昇進」も有り得ることになります。
 終盤でやや疲れが出る印象ですが、乾坤一擲の戦いを披露していただきたいと思います。

 今場所は、高安に期待します。

 稀勢の里と高安という、旧鳴門部屋の2力士に注目することとなりました。

3. 関脇以下の力士

③貴景勝

 3番手は、この人しか居ないでしょう。
 2018年11月場所の優勝は見事でした。勝ち方を観ると、持ち味の「低い重心」が活きていたと思います。もちろん、対戦力士の研究が進むのでしょうが、押すだけの相撲では無いので、貴景勝側もバリエーションを広げて、「大関取り」に挑んでいただきたいものです。

④阿武咲

 11月場所は11勝4敗の好成績でしたが、相撲内容を観ると「まだまだこんなものでは無い」という印象でした。復帰途上にあったということでしょう。本来のスピードと押しの強さが戻ってくれば、前頭6枚目に上がっても十二分に戦えると思います。旋風を巻き起こしてほしいものです。

⑤阿炎

 11月場所は、6勝2敗と好スタートを切りながら、9日目からの7連敗という意外な結果となりました。本来の相撲が突然取れなくなったのです。
 今場所前の稽古で、問題点はカバーしていると思いますので、大暴れしてほしいものです。

⑥豊山

 11月場所は5勝10敗と不本意な結果でしたが、相撲内容は悪くなかったと感じています。体調の改善も見込める初場所では、本来の「大きな相撲」を披露していただきたいものです。

⑦御嶽海

 9月場所、11月場所と持ち味の「思い切りの良さ」が影を潜めました。取組ごとに「勝つためにはどうしたらよいか」を良く考えて実行するタイプの力士ですが、少し「考え過ぎ」て、前に出るのを忘れたのかもしれません。
 本来の「前に出ながらの仕掛け」を思い出してくれれば、優勝力士としての力量が発揮されることでしょう。

⑧矢後

 新入幕です。9月場所、11月場所と十両上位で着実に力を付けました。相当強くなっていると思います。幕内でも、思い切り自分の相撲を取ってもらいたいと思います。

⑨妙義龍

 ついに三役に戻りました。復帰の過程で、十両から幕内下位の頃は、本来の相撲が中々取れず、力が落ちたかとも言われましたが、ようやくコンディションが整ったのでしょう。そうであれば、三役常連としての力を魅せていただけるのでしょう。

⑩遠藤

 11月場所では、復活に向けた勢いが感じられました。今場所、本来の「前に出ながらの密着相撲」を披露して、二桁勝利をお願いしたいと思います。

 2019年の初場所は、以上の10力士に期待します。

 もちろん他にも、玉鷲、北勝富士、嘉風、朝乃山と楽しみな力士が目白押し。

 「暗雲」を振り払うような「充実した土俵」が期待されるのです。

 千秋楽恒例の協会ご挨拶。
 八角理事長の周りを堂々たる体躯の三役力士が囲む「絵」が通例となっていますが、11月場所の三役力士は僅かに5名でした。
 1列目に4名が並びますから、2列目は僅かに1名という、「寂しい絵」となってしまいました。

 横綱・白鵬と鶴竜の2人が場所前に休場し、残る稀勢の里が場所中に休場し、大関・豪栄道が場所中に休場し、小結・魁聖が3日目から復帰したものの千秋楽に休場したために、こうした「絵」となってしまったのです。

 贔屓目に見ても「異常な絵」でしょう。
 
 11月場所は、小結・貴景勝や大関・高安、平幕・松鳳山、琴奨菊、碧山、阿武咲、隠岐の海らの活躍により、何とか形は付きましたが、「このままではいけない」と考えている大相撲関係者は、数多いことでしょう。

 横綱陣、大関陣が、怪我や年齢との関係で「引退の連続」という事態が、何時来るとも限らないことを、2018年11月場所は明示してくれたのかもしれません。

 とはいえ、横綱・大関を恣意的に創り出すことはできません。
 
 「22歳・史上6番目の若さでの優勝」といった若手力士の大活躍が連続し、横綱・大関陣にどんどん新しい力士が上がって行くようにならなければ、「協会ご挨拶に三役が5名しか居ない」という事態が、これからも発生する可能性は十分にあります。

 11月場所の大一番。

 12勝1敗でトップを走る貴景勝と2敗で追う高安の取組は、11月場所注目の取組でした。
 そして、「引き落し」で高安が勝ち、両力士は2敗で並び千秋楽に向かったのです。

 高安が勝ちましたが、しかしその相撲内容は貴景勝が圧倒していました。
 立合いから貴景勝が押し込み、高安は西土俵に詰まりました。
 この場所の貴景勝の相撲で時折観られた、「あまりの押しの強さ」で相手力士が片足で棒立ちになってしまうシーン、栃ノ心との一番では栃ノ心がそのままひっくり返りましたし、錦木との一番でも貴景勝がそのまま錦木を土俵に押し付けました。

 この高安との一番でも「その押し」が炸裂したのです。
 であれば、貴景勝の勝ち、になりそうなものですが、「あまりの押しの強さ」で背中を向けてしまった高安が、腰を右に捻りながら、くるりと向き直ると、貴景勝は土俵にばったりと倒れてしまったのです。
 高安の背中を押して、送り出しで貴景勝の快勝と思われた相撲が、高安の勝ちとなった瞬間でした。

 「勝ちに不思議な勝ち有り。負けに不思議な負け無し。」とは、プロ野球の野村克也氏が口にしたことで有名な名言ですが、まさにそうした勝負でした。
 高安にとっては、土俵際で相手力士に背中を向けてから向き直ったら相手が倒れていたのですから、「不思議な勝ち」であったと思います。
 一方で、自らの足が流れてバランスを崩してしまった貴景勝にとっては「必然の負け」であったことでしょう。

 12勝2敗で並んだ両力士の千秋楽の結果については、皆さんご存知の通りです。

 こうした形になれば「追う方が有利」というのは常識でしょうが、貴景勝にはこうした逆風を跳ね返す力というか、能力が備わっているのでしょう。
 この能力こそが、貴景勝の最大の強みであろうと思います。

 11月場所は、貴景勝が13勝2敗で優勝しました。

 大混戦の場所となりましたから、10日目辺りでは、優勝は12勝3敗、あるいは11勝4敗ではないかといった見方も多かったことを思えば、好成績での優勝と言って良いと思います。

 貴景勝の初日の取組相手は横綱・稀勢の里でした。
 
 この相撲で稀勢の里は、立合いで「左から突き放し」ました。
 場所前から、出稽古等での好調が伝えられ、「ついに復調か」と期待されていた稀勢の里としては、この「左からの突き放し」で勝負の大半を決める、上手くすればこの突き放し一発で貴景勝を仕留める位の気持ちで、技を繰り出したのではないでしょうか。

 ところが、貴景勝は少し後退したものの全く体制は崩れず押してきました。
 予想外?の反撃に慌てた稀勢の里は、押し返しましたが、結局貴景勝の強烈な突き落とし気味の「叩き込み」によって、土俵に腹ばいになったのです。

 この一番が「11月場所の骨格を決めた」ように感じます。

 稀勢の里は結局、この一番で発症した故障により休場してしまいましたが、体の故障より大きかったのは「心理的影響」、自信喪失ではなかったか。
 「復調している筈」の自らの必殺技が効かなかったことのダメージは、とても大きなものだったのでしょう。

 実のところは、11月場所で最も好調な力士と初日に当たったのです。
 優勝争いに加わるような好調力士は、横綱と言えども簡単には勝てないのは道理です。
 本来は「絶好調の小結」に敗れたことを、それ程気にする必要は無かったのでしょうが、初日ではそれは分からなかったのです。

 加えて、場所を通して威力を発揮する「貴景勝の突き落とし」ですが、初日の段階でそれ程の威力があるとは認識されていなかったために、稀勢の里にとっては「土俵に叩き付けられたこと」のショックが、とても大きなものだったのではないかと感じます。
 実は「優勝力士の必殺技」を受けたのですが、初日の段階では「自らの調子が悪い」と捉えた可能性があります。

 この取組で完勝した貴景勝が、勢いに乗って11月場所の優勝に辿り着いたことは、言うまでもないことです。

 初日結びの一番「稀勢の里VS貴景勝」は、2018年11月場所を象徴する取組だったのでしょう。

 11月11日に福岡国際センターで開幕する、大相撲11月場所の注目力士検討です。

 9月場所は、横綱・白鵬の「復活」優勝の場所でしたが、栃ノ心、御嶽海と新興勢力?の優勝が続いた後、再び大横綱が待ったをかけた感が有ります。
 大相撲界は今、新旧入り乱れた戦国時代を迎えているのでしょう。

 土俵外の騒動でも揺れた2018年の角界ですが、11月場所で「土俵の充実」を示して、しっかりと締め括っていただきたいと思います。

1. 横綱陣

 先場所優勝の白鵬を挙げたいところですが、場所後手術を行ったこともあって休場が決まりました。。

 今場所は、「復帰2場所目」の稀勢の里に期待しましょう。
 場所前の稽古についての情報では、好調が伝えられています。

2. 大関陣

 先場所、カド番を凌いだ栃ノ心を挙げたいところですが、膝に故障を発症したとのこと。
 
 今場所は、高安の初優勝に期待しましょう。
 稀勢の里が元気になると、高安も元気になるのではないかと思っています。

3. 関脇以下の力士

③ 御嶽海

 9月場所の大関とりはなりませんでしたが、御嶽海の実力は誰もが認めるところでしょう。今場所再び、優勝争いに顔を出すようなら、大関取りも夢ではありません。

④ 朝乃山

 9月場所の後半は精彩を欠きました。どこか故障したのではないかと訝っています。
 その故障も癒えたとして、11月場所では二桁勝利を期待します。

⑤ 遠藤

 9月場所の後半は精彩を欠きました。こちらは間違いなく、どこか故障していたのだと思います。そこからの復帰度合いが気にはなりますが、怪我との付き合い方も身に付けていることでしょうから、この番付=前頭12枚目なら、大勝を期待します。

⑥ 阿武咲

 9月場所は精彩を欠きました。持ち前の馬力が全く発揮できなかった印象です。こちらもどこか故障していたのではないかと思います。故障も癒えた今場所、この番付=前頭13枚目なら、大勝を期待します。

⑦ 貴景勝

 地力が付いてきました。器用なところもありますので、小結になっても十分に上位と戦って行けると思います。「大関取り」の足場となる場所にしてほしいものです。

⑧ 阿炎

 9月場所は良い相撲を取っていましたが、星には恵まれなかった印象です。役力士との取組が減る番付=前頭7枚目に下がりましたので、思う存分暴れていただきたいと思います。

⑨ 豊山

 故障も有って9月場所は不本意なものとなりました。地力が付いてきていることは周知のことですので、ここまで番付が下がった=前頭10枚目、からには大勝を期待します。

⑩ 北勝富士

 前頭筆頭の番付で、自分の力を試す場所となりました。前に出る相撲を取ることが出来れば、勝ち越しが十分に狙えると思います。

 11月場所は、以上の10力士に期待します。

 多士彩々の大相撲界ですから、もちろん他にも有力力士が沢山います。

 「素晴らしい土俵」が期待されるのです。

 西幕下筆頭の豊ノ島が9月場所で6勝1敗の好成績を収めました。

 十両力士の成績との関連も有りますが、11月場所での十両昇進は確実だと思います。

 2016年7月場所の場所前稽古中に左足アキレス腱を断裂し、2場所連続休場となって、11月場所に幕下に陥落した豊ノ島は、関取復帰に向けての戦いを続けましたが、以降も故障が続き中々十両復帰は成りませんでした。

 関脇を何度も務め、小兵ながらもその独特の相撲によって三賞を十度(殊勲賞3、敢闘賞も3、技能賞4)も受賞している豊ノ島には、当然ながら多くのファンが居て、関取への復帰を心待ちにしてきたのです。
 私もそのひとりです。

 9月場所では、4勝1敗で迎えた11日目の蒼国来戦を勝利したことがポイントとなり、14日目の鏡桜戦も制して、6勝と大きく勝ち越しました。(それにしても、3日目の豊響、11日目の蒼国来と、幕ノ内で戦っていた力士達が幕下で頑張っています)

 そして、ついに実現する時がやって参りました。

 36歳となった豊ノ島ですが、関取として「もうひと花」咲かせていただきたいと思いますし、その力は十分にあると感じます。
 横綱・稀勢の里の復帰、横綱・白鵬の復活優勝、大関・栃ノ心のカド番脱出と、上位陣が次々と「9月場所の目標」を達成した中で、唯一、関脇・御嶽海の大関取りだけが失敗しました。

 これだけ多くの上位力士の「思いがこめられた場所」ですから、全ての「重い」が成就するというのは、難しいことなのでしょう。

 9月場所の御嶽海の相撲は、先場所と比べて、前に出る力とスピードが劣っていたと感じます。これは、初日から感じました。本場所に強い力士とされている御嶽海にしても、やはり緊張と気負いが有ったのかもしれません。

 結果として土俵上で、先場所より「小さく」観えました。

 御嶽海の身長180cm・体重170㎏という体格は堂々たるものですが、上位陣には大きな力士が並んでいるのです。
 身長192cm・体重154kgの白鵬、身長188cm・体重176㎏の稀勢の里、身長185cm・体重180kgの高安、身長191cm・体重175㎏の栃ノ心、身長193cm・体重227kgの逸ノ城と、関脇以上には大型力士が目白押しです。

 こうした状況下で御嶽海が勝ち抜いて行くためには、スピードと相撲の上手さが必要なことは言うまでも無いことでしょう。
 そして、7月場所では、この「上手さ」、相撲に行っての機を観るに敏な取り口が存分に発揮されたのです。(7月場所で3横綱を始めとして、上位陣が軒並み休場したことも、多少は影響が有ったかもしれませんが・・・)

 7月場所と比べて調子が悪かった御嶽海ですが、14日目の高安戦では本領を発揮しました。対戦成績で圧倒的に負けている(7連敗中)の大関を、土俵際の動きで逆転勝ちしたのです。
これこそが、相手力士の僅かな重心の動きを取らまえて勝機を見出していく相撲こそが、御嶽海の真骨頂でしょう。

 その相撲が取れていることが、高安戦で示されたわけですから、あとはコンディションを整えていただき、前に出るパワーとスピードに磨きをかけてもらいたいと思います。

 御嶽海関には、再び「大関取りのチャンス」がやってくることは間違いないのですから。
 栃ノ心にとっては、とても苦しい場所だったことでしょう。

 自身の故障が回復途上の中で、横綱・稀勢の里が進退をかけて登場し、横綱・白鵬にとっての復活の場所であり、関脇・御嶽海の大関取りの場所となった9月場所は、多くの上位陣にとって「特別の場所」となっていましたから、そうした中で「カド番」大関が勝ち越すことは、いつもの場所にも増して難しいことだと予想されたのです。

 3日目に貴景勝、5日目に御嶽海に敗れた時には、心配が現実のものになってきたと感じました。上位陣との対戦を前に黒星を重ねることは、まさにピンチなのです。

 9日目に稀勢の里の「復活の相撲」に敗れて4敗目(5勝)を喫した時には、いよいよ心配が募りました。

 そうした心配を払拭したのは11日目の鶴竜戦でしょう。
 「つり」を駆使して破ったのです。

 絶滅危惧種である「つり出し」という技を、経常的に使いこなしている唯一の関取が栃ノ心です。
 その栃ノ心が「伝家の宝刀」を繰り出して横綱を破ったのです。

 この白星を観て、「大丈夫だ」と確信しました。
 栃ノ心の気迫は、いささかも衰えていなかったのです。

 艱難辛苦の場所を乗り切った栃ノ心の、今後の活躍が本当に楽しみです。
 長い休場明け、「進退をかけた場所」に臨んだ稀勢の里は、15日間を取り切りました。
 10勝5敗でした。

 「取り切った」こと自体が、まずは横綱としての責任を果たしたということでしょう。
 15日間ファンの前に姿を現すこと、堂々と存在を示すことが、「横綱」の大きな仕事なのです。

 前半戦は長い相撲ばかりでした。
 動きが鈍い稀勢の里に対して、相手力士は素早く動き回り、あの手この手で攻めてきました。
 稀勢の里は、この連続攻撃に良く耐え、最期は白星を物にするという、綱渡りのような取組が続いたのです。

 はらはらどきどきの取組が続いていましたから、初日から5連勝とした時には、少し「不思議な感じ」がしたものです。とっくに1敗しているように観えたのです。
 5連勝とはいえ、全く自分の相撲が取れていませんでしたから、いつ崩れるか、という心配は続いていました。6日目と8日目に負けた時には、さもありなん、という感じでした。

 そして9日目の栃ノ心戦を迎えたのです。

 この相撲で、稀勢の里は蘇ったと思います。

 右上手をがっしりと取った横綱は、栃ノ心をじりじりと追い詰め寄り切りました。
 9月場所で初めて見せた「稀勢の里の相撲」でした。

 この相撲を観て、初めて、稀勢の里は復活できると確信しました。
 稀勢の里も、「相撲を思い出した」のではないでしょうか。

 横綱になって初めての横綱戦は、白鵬に敗れ、鶴竜に勝ちました。
 復帰の場所としては十分な成績だと思います。

 横綱としての、稀勢の里のキャリアが、ようやくスタートしました。

 もちろん、次の場所では優勝争いが求められることになります。
 9月場所は、横綱・白鵬が全勝優勝を飾りました。

 休場明けの場所でしたが、初日からスピード十分の取口を展開しました。
 対戦相手毎に、良く考えた内容の相撲を取っていたと感じます。
 最も素晴らしいのは「15日間のペース配分」でしょうか。終盤に来て疲労が蓄積し、パワー・スピード共に衰えてしまう力士が多かった中で、白鵬は最後まで取り口を維持しました。

 下位力士との力の差が小さくなっていることは不変ですが、その僅かな差を取組に活かして行く戦術構築力と、実行して行く集中力はさすがでした。

 14日目の豪栄道戦を勝った時には「幕ノ内1000勝」も達成しました。
 「空前」の大記録です。無類の強さを示したのです。

 毎日のように観られる「張り差し」や、時折見せる「ダメ押し」、連続する「勝負俵踏みつけ」(横綱土俵入り、取組における呼出し後の所作、最初の塩に行くとき等)など、白鵬は相変わらず「横綱の品格」には程遠い存在だと言われています。

 一方で、「白星への執着」は、若い頃から不変です。かつてのように、どうしても勝ちたい取組での立合い変化は観られなくなりましたが、大袈裟に言えば「勝つ為なら何でもする」雰囲気は維持しているのです。ゲームに臨むスポーツプレーヤーとしては、見習わなければならない点なのかもしれません。

 「円熟」には無縁ですが、この「執念」が有る限り、これからも勝ち星を重ねて行くことでしょう。
 夏の甲子園2018で大ブレイクした「金足農業高校ブランド」ですが、大相撲の大ベテラン・琴風関も、その金足農出身者のひとりです。

 メディアにも採り上げられていますが、8月24日配信の日刊スポーツの記事が、琴風関の思いを詳細に伝えてくれました。

 金足農チームが準決勝進出を決めた翌日8月19日、札幌市の夏巡業で報道陣に囲まれた琴風は、
 「今まで眠っていた感情、細胞が後輩たちに覚まさせてもらった。長くやっていると忘れていくものがあるけど、それを覚まさせてもらった。ベスト8になるだけでもすごいことなのに。言い方は悪いけど、地方の公立校が強化選手を集めた私立の高校を倒す、これ以上の快感はないですよね。秋田には秋田商とか大曲工とかあるけど、金足農というのがもうね。」
 と語ったそうです。

 「・・・『途中からは最初の整列だけで泣けてました』と涙なしでは見られなかったという。・・・」
 母校の活躍は、琴風の心に強く響いたのでしょう。

 そして、「・・・『次は自分の番ですよ』とモチベーションが高まった。」と続き、「・・・『とてつもない力になりましたから。これも何かの縁だなと。ここで先輩の背中、意地を見せないといけない。見せてやりますよ』・・・」と締め括られています。

 2018年に入ってやや元気が無く、9月場所では十両西6枚目番付に下がった豪風ですが、後輩たちの活躍を目の当たりにして、本来の「琴風の相撲=動きのスピードと相手の取り口を瞬時に判断した上での対応力」を魅せていただきたいものです。
 9月9日、東京・両国・国技館にて開幕する、大相撲2018年9月場所の注目力士検討です。

 2018年は、横綱・大関陣と関脇以下の力士の力量差が小さくなり、前頭上位以上の番付であれば、どの力士にも優勝のチャンスがある状態となっています。
 加えて、いわゆる「世代交代」も進んできました。

 9月場所の番付を観れば、前頭6枚目以上の力士には、ベテラン・三役経験者に加えて、数多くの若手力士が名を連ねていて、その充実ぶりには目を見張ります。

 9月場所も、毎日優勝候補力士が入れ替わる大接戦となることでとでしょう。

1. 横綱陣

 稀勢の里が「進退をかけて」出場してきました。横綱ですから二桁10勝がボーダーラインとなるのでしょうが、やはり序盤戦にどれくらい「自信」を積みあげられるかがカギでしょう。
 持ち味の「豪快な相撲」を魅せていただきたいものです。

 白鵬も出場するとなれば「大横綱」に恥じない内容が求められますから、なかなか大変だと感じます。

 3横綱それぞれに不安な要素が有りますが、安定感から選ぶとすればやはり鶴竜なのでしょう。

2. 大関陣

 栃ノ心がカド番です。先場所の怪我の回復度合い次第でしょうが、今場所は勝ち越しを目指す場所になるのかもしれません。

 豪栄道と高安には復調の兆しが有ります。今場所は豪栄道に期待したいと思います。
 稽古場の強さを本場所で発揮してほしいものです。

3. 関脇以下の力士

③関脇・御嶽海

 先場所の優勝をベースとして、大関取りの場所と言われています。持ち味である「本場所での強さ」に期待します。

④阿武咲

 勢いに乗れば「連勝」出来るタイプです。故障個所も相当に回復してきていると思いますので、優勝を目指してほしいと思います。

⑤豊山

 一皮むけた感じです。7月場所の後半戦8連勝は見事でした。特に、千秋楽の御嶽海との一番は「取組オブザイヤー」の候補筆頭でしょう。東前頭2枚目まで番付を上げた9月場所は、真価が問われる場所となります。

⑥朝乃山

 先場所は「優勝争いの一角」を占めました。地力が付き、おおらかな相撲が威力を発揮し始めています。今場所も活躍してくれるでしょう。

⑦北勝富士

 ようやく相撲を憶えてきたというところでしょうか。前に出る力が強いので、力の出しどころを掴めば、一気に上位に上がってくると思います。

⑧嘉風

 このところ元気が有りませんが、西の15枚目まで下がった9月場所は、目を覚ましてくれるのではないでしょうか。本来のスピード相撲が観たいものです。

⑨琴勇輝

 幕尻で相撲を取る力士では無いと思います。体調が戻っていれば、二桁勝利が望めます。

⑩遠藤

 先場所終盤の4連敗は、故障の再発を感じさせました。とはいえ、当代屈指の技士ですから、その活躍は大相撲にとって不可欠のものです。

 9月場所は、以上の10力士に注目します。

 何といっても、「稀勢の里の復活」と「栃ノ心のカド番脱出」がポイントとなる場所なのでしょう。
 7月場所最高の「大相撲」でした。

 2018年の各場所を通じても最高の「大相撲」かもしれません。

 千秋楽の御嶽海と豊山の一戦は、素晴らしい相撲でした。

 互角の立合いから御嶽海が押し込みます。
 豊山は、向う正面の俵まで押し込まれました。「勝負が速い」今場所の御嶽海ですから、このまま寄り切りか押し出しで勝負がつくかと思われましたが、豊山が粘ります。
 東の徳俵付近まで回り込み、御嶽海の押しを堪えます。

 そして豊山が反撃し、押し返しました。この押しは強烈で、御嶽海が後退、俵を伝って押しを交わしにかかります。豊山が押し出すかに観えましたが、御嶽海は何とか堪えました。

 向う正面西寄りにて2人の動きが止まりました。
 両力士の力が一瞬拮抗したのです。

 「おおー」、地鳴りのような歓声が館内に響き渡りました。

 満員の観客の心からの叫び、驚きが籠った、凄まじい歓声でした。(これ程の歓声を大相撲で耳にするのは、何時以来でしょうか)

 一瞬の静止の後、御嶽海が押しに入りました。正面東寄りまで一気に押し込みます。
 このまま御嶽海が押し出すかに見えた瞬間、豊山は土俵際で踏ん張り、投げを打ちました。

 この投げに対して、御嶽海も豊山に体を預けて行ったのですが、豊山は脚をかけて、御嶽海を腰に乗せ、ブン投げました。

 態勢としては2~3度逆転があり、共に相手力士を土俵際まで追い込み、「勝った」と感じさせる瞬間が何度かありました。
 その相撲が「スピード十分」な動きの中で連続したのです。

 その「応酬」は、息つく暇も無く、見ごたえ十分。
 勝負が決した後、両力士は呆然とした様子でしたが、観客も呆然としていた感じでしょう。
 まずは「何が起こったのか」の整理に、数秒の時間を要したのです。
 
 まさに「大相撲」でした。

 7月場所で初優勝を飾り、9月が大関取りの場所になる御嶽海にとっては、14勝と13勝の差は大きいとの見方もあるのでしょうが、この「大相撲」の前では小さな話に観えてしまいます。

 NHKテレビ放送の解説者・北の富士氏の「こんな相撲を見せられると、大相撲もまだまだ捨てたもんじゃ無いね」というコメントが総てを物語っているのでしょう。

 大相撲界最大の使命は「良い相撲をお客様に披露すること」でしょう。
 プロスポーツとしての、何にも代えられない「使命」です。

 大相撲界の明日を支える2人の若手力士、御嶽海と豊山が、その「使命」を見事に果たした一番でした。
[14日目・名古屋ドルフィンズアリーナ]
○御嶽海(寄り切り)栃煌山●

 この一番に勝てば優勝という御嶽海でした。

 緊張して固くなるかと思われましたが、立合いから御嶽海の落ち着いた取り口が印象的でした。

 まず立合いで、栃煌山に両差しを許しませんでした。
 実力者栃煌山の最大の武器は「立合い両差しからの一気の寄り」ですが、これを封じたのです。御嶽海の左脇の固さが生きました。

 左四つからの攻防で、右をこじ入れて、栃煌山にバンザイをさせました。見事な攻め。

 そのまま正面に寄りたて、寄り切ったのです。
 「前に出る力」は見事。

 今場所の御嶽海の相撲の特徴でもある「相手力士は土俵の外へ、自らは土俵の中に居る」形での、腰を十分に落としての寄り切りでしたから、相当に余裕のある取り口でした。
 堂々たる相撲と言って良いのでしょう。

 5月場所は9勝に終わった御嶽海が、今場所連勝を続け、12日目に大関・高安を相手に惜しい星を落とした後も「連敗癖」は出ず、結局14日目を終えて13勝1敗で早々に優勝を決めたのです。
 いったい、5月から7月の間に御嶽海に何が有ったのかと言う感じがします。
 「大変身」です。

 体格もひと回り大きくなったように観えます。
 心持が体躯にも反映されている感じです。

 「3横綱+栃ノ心」が休場した7月場所は、「御嶽海の場所」になりました。

 9月場所が「大関取りの場所」になるのは間違いありませんし、今場所の相撲は既に大関レベルのものだと感じます。
 新大関・栃ノ心が、6日目の玉鷲との一番で故障し、7日目から休場することになりました。
 栃ノ心は右足親指の関節が外れたという症状ですので、休場も止むを得ないところです。

 とはいえ、横綱・稀勢の里が初日から、横綱・白鵬が4日目から、横綱・鶴竜が6日目から休場してしまっていた中で、7月場所を支えて行くと見られていた栃ノ心までが休場に追い込まれたことは、「大相撲」としては現状の「トップ4」が土俵に姿を見せないという異常事態であることは間違いないでしょう。

 いわゆる「八百長問題」により存亡の危機に追い込まれた大相撲でしたが、様々な対策を立案・実行することで、「ガチンコ相撲」が普通に披露されるようになり、その他の要因も相俟って、一気に人気が回復、現在の隆盛に結び付いているのだと思います。
 協会の歴代理事長が事あるごとに口にしてきた「土俵の充実」が図られてきたのです。

 一方で、こうした流れの中で「休場力士」が、各場所で増加してきたことも事実です。
 「ガチンコ相撲」になったので「休場」が増えたということではないと思いますが(そんなことだとすれば、かつてはどんな相撲が披露されていたのか、といことになってしまいます)、激しい相撲が故障増加に結び付いていることは事実なのでしょう。

 そして、「上位・下位にまんべんなく発生していた」休場が、7月場所では主に上位に、それも「トップ4」に集中してしまったのです。

 故障しないような体作りが叫ばれて久しいのですが、今後は、故障し難い取り口の研究・実行も必要なのでしょう。

 「トップ4」が姿を消した7月場所は、カド番大関2名、豪栄道と高安が牽引して行くことになります。
 加えて、関脇・御嶽海が7戦全勝でトップを走っています。
 現時点の7月場所の優勝候補筆頭です。
 そして、前頭6枚目の遠藤と千代大龍、同13枚目の朝乃山が1敗で続いています。

 「トップ4」の居ない7月場所の展開は、全く予断を許しません。
 7月8日から名古屋のドルフィンズアリーナで開催される、2018年7月場所の注目力士検討です。

 「大関」栃ノ心が初めて臨む本場所です。

 関脇・逸ノ城を始めとする上位陣も、とても充実しています。

 横綱・鶴竜の3場所連続優勝が成るか、などなど、見所満載の7月場所が始まるのです。

1. 横綱陣

 このところの充実ぶりを観れば、やはり鶴竜に注目します。

 白鵬にとっては、本場所で新しい取口を模索する日々でしょうし、休場する稀勢の里にとっては「復活」に向けての取組が続く日々なのでしょうか。

2. 大関陣

 こちらも、勢いに乗る栃ノ心に注目します。
 7月場所で優勝するようなら、一気に横綱昇進もあると、勝手に考えています。

 豪栄道と高安には、思い切って取ってほしいものです。「らしい相撲」を期待しています。

3. 関脇以下の力士

③関脇・逸ノ城

 5月場所では、4日目まで圧倒的な強さを見せた反面、5日目から4連敗と期待を裏切りました。
 幕ノ内上位で毎場所勝ち越すのですから、地力の高さは折り紙付きでしょう。
 初優勝への挑戦に期待します。

④関脇・御嶽海

 なかなか二桁勝てない、というのがファンの正直な気持ちでしょう。大関候補力士としては、まずは10勝を実現し、大関挑戦への足場となる場所にしてほしいものです。

⑤阿武咲

 故障から復活し、5月場所は十両優勝を飾りました。もともと三役クラスの実力者ですから、コンディションが整って来れば大暴れが期待できます。

⑥貴景勝

 「ゴタゴタ」の影響を受けた力士でしょう。相撲に「専心」できれば、この番付でも台風の目になる実力の持ち主だと思います。

⑦遠藤

 故障なく15日間を取り切ることが出来れば、十分に二桁勝利を挙げる地力は付いていると思います。

⑧旭大星

 強くなりました。今が伸び盛りなのではないでしょうか。ここで勝ち越すようなら、更なる飛躍が期待されます。

⑨琴恵光

 新入幕です。右四つから前に出る相撲で、旋風を巻き起こしていただきたいものです。

⑩明生

 新入幕です。左四つから前に出る相撲で、上位をかき回していただきたいと思います。

 7月場所は、以上の10力士に注目します。

 3月場所、5月場所に続いて、横綱・鶴竜と大関・栃ノ心を中心とした優勝争いが展開されるのでしょうが、とはいえ各力士の力量差が小さくなっている傾向は続いていますから、「誰が優勝してもおかしくない」場所であることも確かだと思います。
プロフィール

カエサルjr

Author:カエサルjr
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