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HOME   »   駅伝・マラソン  »  [世界陸上2015・男子マラソン] サプライズに次ぐサプライズのレース
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 陸上競技の世界選手権大会が8月22日に、中国・北京で幕を開けました。

 最初の種目は男子マラソンでしたが、このレースは予想を大きく超えるものでした。
 「サプライズに次ぐサプライズ」のレースであったと思います。

① ケニア勢の惨敗

 前回モスクワ大会でメダルはおろか8位入賞さえ逃した「中長距離王国」ケニアは、今大会に最強のメンバーを送り込んできました。

 何しろケニアと言えば、陸上競技の男子中長距離種目において圧倒的な力量を誇る国であり、次から次へと世界トップクラスの選手を送り出してくるという意味=21世紀に入ってから継続して世界一のポジションを維持している「王国」なのです。

 そのケニアが、現在の世界最高記録2時間2分57秒保持者のキメット選手と前世界最高記録2時間3分23秒保持者キプサング選手を送り込んできたのです。

 他を寄せ付けない圧倒的なスピードを誇る2人のランナーが登場する以上、今回はケニアの圧勝であろうと予想されました。
 この時期の北京の暑さを考慮しても、「共倒れ」はあるまい、それを防ぐために2人の最強ランナーを並べたのであろうと思われたのです。

 ところが、キメット選手もキプサング選手もゴールすることすら出来ませんでした。

② 五輪・世界選手権王者のキプロティッチ選手の敗北

 マラソンの自己最高記録は2時間6分33秒と、世界トップクラスを争うには「平凡」な水準ですが、世界一を決めるレースにおける勝負強さでは「他の追随を許さないランナー」である、ウガンダのキプロティッチ選手が、今大会にも出場して来ました。

 2012年のロンドン・オリンピック金メダリストにして、2013年のモスクワ世界選手権大会優勝者のキプロティッチ選手が、北京大会も制するようなら「五輪優勝・世界選手権優勝2回」という、史上初の快挙なのです。

 大レースでの無類の強さを誇るキプロティッチ選手でしたが、このレースでは6位に敗れました。

③ イタリア勢の健闘

 レースはスタートからスローペース、それも5km15分台後半という、このレベルのレースとしては「超スローペース」で進みました。
いくら酷暑のレースとはいえ、これは遅すぎると感じました。

 そして先頭集団が20km付近を過ぎた辺りで、イタリアのペルティーレ選手が飛び出しました。
 これだけのスローペースでは全く自分のレースが出来ないであろう、ケニアのランナーが満を持して一気に加速するであろうと予想していましたが、飛び出したのはイタリアのランナーだったのです。

 ペルティーレ選手の持ちタイムは2時間9分台ですから、世界選手権大会でメダルを獲得するには力不足の水準です。
 一方で「暑いレースで粘り強い走り」を見せるという意味では、数々の実績を誇るイタリア勢ですから、その伝統を信じての勝負にも観えました。

 単独で飛び出したペルティーレ選手に追い付いてきたのも、同じイタリアのメウッチ選手でした。メウッチ選手の持ちタイムは2時間11分台でしたから、そもそもこのレベルのレースでここまで先頭集団に居ること自体が難しい筈なのですが、それが先頭争いを演じているのです。
 メウッチ選手はペルティーレ選手と並走することなく、先頭に立ちました。

 このレースがいかに超スローペースで進んできたかを示す事象でした。

 とはいえ、さすがに世界トップクラスが集う先頭集団は26km付近で2人のイタリア人ランナーを吸収しました。
 先頭集団はここでペースアップかと思われましたが、ペースは一向に上がりませんでした。

 そして、驚くべきことに世界最高記録を持つケニアのキメット選手が、先頭集団から遅れ始めたのです。
 キメット選手にとっては「ジョギングが続いていた」ようなレースでしたが、「酷暑から来る終盤の失速を怖れてペースを遅くし過ぎたために自分の走りが出来なかった」のではないかと思います。

 やはり、強い選手は自分でレースを創っていかなければならないのでしょう。

④ レソト王国のラモネネ選手がトップを独走

 超スローペースが続きましたから、28km付近で再びイタリアのペルティーレ選手が飛び出すなど、不安定なレースが続きました。

 そして、29km付近でラモネネ選手が飛び出しました。

 レソトのラモネネ選手と放送されましたが、正直に言って「レソト」という国名を初めて聴きました。南アフリカ共和国の中に在る、人口200万人程の王国なのです。
 おそらく、世界一を争うスポーツシーンで「レソト」という国名が初めて世界に報じられた瞬間でしょう。

 ラモネネ選手の持ちタイムは2時間16分台ですから、このレベルのレースで30km近くまで先頭集団に居ることは、ふつう考えられないランナーです。このレースがいかにスローペースであるかを改めて証明しているように観えました。

 ラモネネ選手は、本来選手名が記載されたゼッケンを付けるべき「胸」の位置に、番号が付いたゼッケンを付けていましたし、その付け方も、向かって「左側に偏って」いました。世界レベルの大会に不慣れなランナーであろうと感じられました。

 しかし、ラモネネ選手の飛び出しは元気一杯、他のランナーの様子を見るというよりは「勝ちに行った」ものでした。
 ぐんぐん加速して、32km付近では第二グループに23秒差・100m以上の差を付けての「独走」となったのです。

 有力選手が入っている第二グループは、「2時間16分台のランナーだからいずれは失速する」と観て、放置したのでしょうが、このまま残り10kmを押し切る可能性も感じられました。何しろ、相当持ちタイムの低いランナーでも十分付いて行ける「超スローペース」のレースでしたから。

 ところが、34.8kmに設置されていた給水所で、ラモネネ選手は自分のボトルを見つけることに手間取り、止まってしばらく探していました。
 世界選手権のレースで「走るのを止めてボトルを探す姿」というのは、本当に珍しいものです。給水所で自分のボトルを取り損ねて、一般向けに用意されているジェネラルドリンクで代用するという姿は、時々見られますが・・・。

 走るのを止めてしまえば、後続との差が一気に縮まるのは当然のことです。100m以上有った差が20~30mに詰まりました。
 こうなれば、実力差が一気に出てしまいます。ラモネネ選手は、直ぐに捕まりました。そして追い抜かれました。

 ここでレースの主役から落ちてしまったラモネネ選手ですが、14位でゴールしました。2時間17分17秒のシーズンベスト記録でした。有力選手が自己記録に遠く及ばない記録で何とか走り切る、あるいは次々に棄権するという「極めて厳しい環境下」でのレースで、持てる力を存分に発揮した、素晴らしいレース振りであったと思います。

⑤ エリトリアのゲブレセラシェ選手(19歳)が優勝

 36km付近でラモネネ選手をまず抜いたのは、ゲブレセラシェ選手でした。エチオピアの「皇帝」と呼ばれたハイレ・ゲブレセラシェ選手を思い出させる名前ですが、もちろん別人。エリトリアは1991年にエチオピアから独立した国ですから、同様の名前のプレーヤーが居るのでしょう。

 ゲブレセラシェ選手は19歳、持ちタイムは2時間7分台と報じられました。世界トップを狙うには力不足というタイムですが、このレースは「ここからの6km競走」ですから、十分に勝負になります。

 それにしても、このレースの先頭集団には「2時間2分台から2時間16分台まで様々な走力のランナーが混在していた」のです。
 世界選手権大会の先頭集団としては、本当に珍しいと思います。

 37.5km付近で、ゲブレセラシェ選手にエチオピアのツェゲイ選手が追い付きました。

 ツェゲイ選手の持ちタイムは2時間4分台、ケニアに続く陸上競技中長距離種目の強豪国であるエチオピアの代表ランナーであり、20回以上のマラソン経験を持つベテランですから、本来ならゲブレセラシェ選手より優位にあるランナーの筈なのですが、「残り5km」となったこのレースでは、「どちらの余力が大きいか」がポイントでした。

 しばらく2人の並走が続き、38.5km付近でゲブレセラシェ選手が飛び出しました。一気にツェゲイ選手を引き離し、「勝ちに行った」のです。
 ツェゲイ選手に追いかける余力は無く、再三後ろを振り返りました。「2位狙い」に切り替えたのです。

 ようやく「レースの形が決まった」かに観えましたが、まだまだサプライズが待っていました。
 40.5km付近でゲブレセラシェ選手が「コースが分からない」という仕草を見せました。
 こうした大会で「単独で先頭を走る経験」が無かったのでしょう。これまでは、廻りのランナーに付いて行けば良かったのです。

 コースを教えて貰い、ゲブレセラシェ選手はゴールを目指します。

 2時間12分27秒というタイムで、ゲブレセラシェ選手が優勝しました。

 2位はツェゲイ選手、3位はウガンダのムタイ選手でした。

 本当に不思議なレースでした。

 19歳、マラソン3回目、持ちタイム2時間7分台の選手が世界で優勝したものですから、こういう「酷暑のレース」であれば日本人ランナーでも勝負になる、リオデジャネイロも東京も「酷暑のレース」だからチャンスは有る、という見方もあるのでしょう。

 あるいは、「酷暑のマラソン」には「若くてレース経験が少なく、潜在的な肉体疲労が蓄積されていないランナー」の方が力を発揮できる、という考え方も有りそうです。

 しかし、話はそんなに単純ではないでしょう。

 「酷暑のマラソン」においては、世界最高タイム保持者でも走り切ることが出来ず、大レースで強いランナーも力を発揮できないとすれば、「どういう物差し」で代表を選べばよいかは極めて難しいと観るのが妥当でしょう。

 もちろん、「酷暑」の分析も必要でしょう。気温と湿度の関係、レース開始時とゴール時の環境変化、コースのアップダウン・サーフェイスとの関係、等々、分析・判断しなければならない要素は沢山あります。
 気温30℃・湿度50%に向いているランナー、気温25℃・湿度75%に向いているランナー、等々、バリエーションは無限に広がってしまいそうです。

 秋から冬・春にかけて行われることが多い「オリンピック代表選考レース」の成績と、前述の分析・判断を考え合わせて、選考レースでの成績が上位の選手より、「酷暑のマラソン」に強いであろう選手を選出するとすれば、選手等からの抗議や色々な問題が生ずるでしょう。
 キッチリと説明し、選手・コーチ・ファンの皆さん等々に理解・納得してもらうのは、容易なことではなさそうです。一方で、それこそが「オリンピックで好成績を残せる選手を選ばなければならない」という、代表選考メンバーの方々の仕事であることも、間違いありません。

 今回の世界選手権大会・男子マラソンは「ロシアンルーレット」のようでした。

 マラソンという、最長距離の競走種目の難しさを改めて感じさせてくれるレースでもあったと思います。
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