HOME   »   競馬  »  [競馬コラム29] 875億円の第41回有馬記念とサクラローレル
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 現在では、暮れの中山競馬開催の最後を飾るレースは有馬記念競走ですが、1968年から1979年の間は、最後を飾るレースは中山大障害競走でした。ちょうどその頃から競馬を観始めた私は、有馬記念は12月の中旬に行われ、12月下旬の中山大障害で一年の競馬が幕を閉じるという感覚でいました。
 1980年からは、最終開催の土曜日あるいは前週に中山大障害、日曜日に有馬記念が行われるようになり、現在に至っています。

 また2003年から、12月28日が日曜日の時には、有馬記念が行われるようになりました。本当に年が押し迫ってから、一年を締めくくる大レースが行われるのです。2008年も12月28日でした。
 頭書のように、12月中旬に有馬記念という感覚を持っている私からすると、28日になって、例えばボーナスの残りを全額つぎ込んで外れてしまったら、年が越せなくなりそうで怖いな、などと要らぬ心配をしています。

 1956年・昭和31年12月23日に第1回「中山グランプリ競走」として創設・実施され、直後の1957年1月9日に、時の日本中央競馬界理事長であり、このレースの創設に尽力した有馬頼寧(ありま よりやす)氏が急逝したために、レース名が「有馬記念(グランプリ)」と変更されたことは、有名な話です。

 たまたまですが、苗字に「馬」の字が入っていたことも、このレースの呼び易さ、馴染み易さに繋がったのだろうと思います。例えば、佐藤という苗字であれば「佐藤記念」、鈴木であれば「鈴木記念」となっていた訳です。おそらく慣れてしまえば全く可笑しくは感じなくなったのでしょうが、「有馬」という苗字であったことが、より速く馴染んだ要因のひとつであったろうと思いますし、競馬の大レースにより相応しいレース名のようにも思います。
 現在では、有馬記念と聞いて、人名であると知っている人の数は多くないように思います。これが佐藤記念なら、明らかに人名だと感じるでしょうから、こうしたレース名に使われる人名は、人名人名していない名前の方がマッチするということかもしれません。(人名を配した、もうひとつの大レース「安田記念」も、人名人名していないレース名だと思います。もちろん、佐藤記念や鈴木記念がダメということではありませんので、念のため)

 変わった入り方をしてしまいました。

 1951年・昭和26年に始まった日本プロ野球のオールスターゲームにヒントを得たのか、ファン投票による出走馬選定という、競馬のオールスターレースが有馬記念競走なのです。

 一方で、このレースは、東京優駿(日本ダービー)競走などの大レースが開催される、府中の東京競馬場に比べて、皐月賞と中山大障害が看板レースだった中山競馬場に、より華やかな番組を創りたいという強い思いから生まれたものですので、開催場所は中山競馬場です。(当たり前のことで恐縮です)そして、昨年までの56回の開催が全て中山競馬場で行われています。中央競馬のG1競走で、全てのレースが同じ競馬場で開催されてきたレースは、有馬記念だけなのです。
 偶然かもしれませんが、中山競馬場の改装工事なども有馬記念開催に影響が無い時期、影響が少ない時期に行われてきたと思われますし、レース創設時の中山競馬場関係者の気概が、脈々と受け継がれているように見えて、興味深い事実です。

 加えて、この大レースが中山競馬場で開催されてきたということが、このレースの特徴を形作っています。

 中山競馬場の内回り芝コースは、最後の直線が310mしかありません。中央競馬のG1競走を実施するコースとしては、最も短いのです。500mを優に超える東京競馬場と比較すると「半分しかない」という感じです。
 従って、有馬記念では4コーナーで先行集団に居ないと、勝つのは難しいということになります。では、逃げ馬や先行馬が絶対に有利かというと、これが必ずしもそうではなくて、ゴール前の逆転も時々観られます。310mの直線には、高低差2mの坂が待ち受けていますので、先行馬の突然の失速も有り得ます。
 こうした、有馬記念競走の特徴は、中山競馬場の特徴を色濃く反映しているのです。

 オールスターレースである有馬記念ですから、その勝ち馬は名馬の宝庫です。また、歴史に残るレースも沢山あります。その中で本稿で採り上げるのは、1996年・第41回の勝ち馬サクラローレルです。

 サクラローレル号、父Rainbow Quest、母ローラローラ、持込馬です。生涯戦績は、22戦9勝、内フランスで1戦0勝です。
 サクラローレルが3歳を迎えた1994年は、既に持込馬がクラシック競走に出走できるようになっていました。一方で、ローレルのデビューは3歳の1月と遅かったので、陣営はローレルで日本ダービーを目指すこととしました。
 ダービートライアルレースの青葉賞で3着に入り、出走権を得ましたが右後脚の故障でこれを回避。この年は、あのナリタブライアンが三冠馬に輝いた年でしたが、サクラローレルはブライアンと一戦も交えることなく、3歳を終えてしまいました。

 明けて1995年、サクラローレルは4歳になりました。早々に、中山の金杯G3を勝ち、重賞初勝利を挙げましたが、天皇賞(春)を目指しての調教中に、両前脚深管骨折という重傷を負いました。安楽死処分こそ、何とか回避したものの、ローレルは長期の休養を余儀なくされました。
 継続して、怪我に悩まされていた馬であり、重賞も勝っていますから、このまま引退となっても何ら不思議の無いところですが、サクラローレルの関係者は復活に向け、努力を続けたのです。

 明けて1996年、3月の中山記念G2から再始動。屋根も、小島太騎手の引退に伴って横山典弘騎手に乗り替わりました。サクラローレルの大活躍が始まりました。
 中山記念は、長期休養明けということもあって人気薄でしたが、一番人気の皐月賞馬ジェニュイン以下を一蹴して優勝、天皇賞(春)G1に駒を進めます。この第113回天皇賞(春)は、前年の三冠馬ナリタブライアンとメキメキ力を付けてきたマヤノトップガンの2強対決と見られていました。
 しかし、サクラローレルは最後の直線でナリタブライアンを一気に差し切り、2と1/2馬身の差を付けて快勝しました。同期のエースに土を付けるとともに、G1初勝利を挙げたのです。

 1996年秋緒戦のオールカマーG2で、マヤノトップガンと再び対戦し、再びこれを破って優勝。このレースはマヤノトップガンが一番人気でしたから、6歳になってから本格化したサクラローレルは、なかなか人気ではナリタブライアンやマヤノトップガンに勝てなかったことになります。
 次戦は天皇賞(秋)G1ですが、これは横山典弘騎手が自ら言うように「非常にまずい騎乗」で3着に敗れました。
 そして、次にサクラローレルが駒を進めたのが、本稿の第41回有馬記念でした。

 このレースは、ナリタブライアンこそ回避しましたが、ファン投票第一位のマヤノトップガン、宝塚記念馬マーベラスサンデー、重賞9勝の女傑ヒシアマゾン、オークスとエリザベス女王杯を制したダンスパートナー、エリザベス女王杯馬ホクトベガ、秋華賞馬ファビラスラフィン、皐月賞馬ジェニュイン等々、錚々たるメンバーとなりましたが、サクラローレルが一番人気になりました。ファンも、ついにこの馬の地力を認めたのでしょう。

 レースは、4角で外側から先頭グループに並んだサクラローレルが、直線で良く伸びて、2着のマーベラスサンデーに2と1/2差を付けて完勝。とても強い勝ち方だったと思います。

 明けて1997年、軽い骨折で静養していたローレルは、ぶっつけで天皇賞(春)に挑みましたが、ここはマヤノトップガンの大駆け(驚異のレコード勝ち)に屈して2着。
 秋は、陣営の悲願であった凱旋門賞挑戦に向けフランスに渡り、フォア賞G2に臨みます。しかし、レース中に右前脚に故障を発症し競走中止、現役を引退することとなりました。残念なことですが、サクラローレルの競走馬人生?には、常に脚の故障が付いて回りました。

 私の競走馬分類項目の中に「The古馬(ざ ふるうま)」というのがあります。その選定基準は、
① 4歳以降に本格化し、2・3歳時より明らかに良い成績を収めたこと。
② 速いのではなく強いこと。
③ 堂々としたレース振りであること。 の3つです。
 サクラローレルは、この「The古馬」の一頭です。

 サクラローレルは6歳時に5戦して4勝、内G1を2勝していますが、この頃のレース振りは、まさに尊称としての古馬(ふるうま)そのものでした。どのレースでも、展開にかかわらず、最後の直線で前に出て、悠然と走りました。がっしりとした大きな馬体から、ドドッ、ドドッ、ドドッ、という蹄の重厚な音が聞こえてくるような、重戦車が走っているような迫力でした。
 周りの馬がどんな競馬をしようとも、サクラローレルは動ずる様子もなくゴールを目指します。まさに百戦錬磨の強者。華やかさではなく強さを、全身から発している馬でした。サラブレッドのひとつの完成型だと思います。

 そして、サクラローレルが勝利した、1996年・第41回有馬記念競走は、日本競馬のひとつのピークを示現したレースでもありました。レース売り上げが875億円に達したのです。1レースの売上として、日本競馬史上最高ですし、世界競馬史上でも最高で、ギネスブックにも載っています。
 戦後の復興の過程で、発展・拡大を続けてきた日本の中央競馬は、このレースでひとつのピークを迎えたのです。

 本ブログでも、何回か登場している話ですが、日本の労働者人口は1997年~1998年にピークを迎えましたので、いわゆる物販関連の各事業の売上も、この時期にピークを迎えています。
 中央競馬も例外ではありません。この1996年末から1997年にかけてが、中央競馬の売上のピークでした。サクラローレルがマヤノトップガンの2着となった1997年の天皇賞(春)の売上も453億円に達し、天皇賞史上最高売り上げを記録しています。

 中央競馬全体の年間売上金額も1997年の4兆6億円がピークでした。この後、中央競馬の売り上げは14年連続で減少し、2011年は2兆2936億円と、1997年比43%の減少となっています。ちなみに、2011年の有馬記念の売上は378億円でしたから、こちらもピークの1996年比57%の減少です。有馬記念競走について言えば、半分以下の売上になっているのです。

 こうしたエンターテイメント関連事業で勘違いしやすいのは、スタープレーヤーの有無の影響を、大きく考えすぎることです。売り上げが伸びない、あるいは減少すると「スター不在だから」とか「人気馬が出ていなかったから」とか考えてしまいがちですが、有馬記念の売上推移を観る限り、メンバーの変動による影響は小さなものです。
 何度も記載して恐縮ですが、基本的には「給料を稼いでいる人の数が減少している」のですから、販売額は減少するのです。減少するのが自然なことで、こうした全体需要が縮小している状況下で、売り上げを伸ばしている企業があるとすれば、他の企業の売上を相当の比率で奪い取っている可能性があります。「新しい需要を創造している事業」であれば良いのですが、こうした人口減少局面では、需要の創造も容易なことではありませんので、売り上げを伸ばそうとして、強引な手法を用いる事象が発生するのです。

 さて、話しが横道に逸れてしまいました。戻します。

 労働人口の減少や、昨年からは総人口も減少に転じている我が国の状況を考えると、中央競馬の売り上げが減少することは止むを得ないことだと思いますが、減少幅がとても大きい点は気になるところです。普通の企業であれば、売上高が43%減少すれば、当該企業の存続にかかわる状況です。
 3連単やWIN5といった、よりギャンブル性が高い(高配当の)新しい馬券スタイルの導入など、中央競馬会の売上回復に向けての取組が続いています。引き続き「なだらかに売り上げが減少する状態の確立」に向けての継続した取組が必要なのでしょう。
 競馬をギャンブルとしてのみ捉えるのではなく、エンターテイメントのひとつとして考えれば、我が国より遥かに人口が少ない欧州各国におけるサッカーや、アメリカにおける4大スポーツの運営方法を参考として、試してみる価値のある手法が、いくつもあるように思います。

 1997年に引退し、種牡馬となったサクラローレルは、北海道静内の静内スタリオンセンターで供用されました。初年度の産駒から重賞ウイナーを輩出し、21歳となった現在も繋養牧場は変わりましたが、元気にやっているようです。
 サクラローレルの栃栗毛の堂々たる姿を想い出します。一度会いに行ってみようかなと思います。
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第41回有馬記念   サクラローレル  
Comment
230
ナリタブライアンの三冠は、サクラローレルが春天に優勝した前年(95年)ではなく、前々年(94年)です。

ローレルが春天と有馬を取った年は96年なので、6歳ではなく5歳です。
旧表記なら6歳ですが、冒頭から新表記ですので5歳とするのが適切かと。

231
Re: コメントありがとうございます。
コメントいただき、ありがとうございます。
おっしゃる通りです。

馬齢も含めて、ご指摘の通りです。
どうしても記憶主体で書いてしまいますので
これからは留意します。

サクラローレルやナリタブライアンが活躍してから
20年もの月日が経つのかと思うと感慨深いものが
ありますね。

今後とも、コメントよろしくお願いします。


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