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 2012年12月28日、日本時間の今朝、MLBの日本人プレーヤー、松井秀喜選手が現役を引退する旨の記者会見を開きました。NPBで1993年から2002年までの10年間をプレーした後、2003年から2012年の10年間、MLBプレーヤーとして活躍してきた選手の引退ですので、寂しい気もしますが、沢山の素晴らしいプレーを魅せてくれた「ゴジラ松井」にお礼を申し上げたいと思います。松井選手、本当にありがとうございました。

 松井秀喜選手(以下、松井)につきましては、書き切れないほどの思い出をいただきましたが、本稿では、引退に際して感じる印象的な事項について簡記したいと思います。

① ライナー性の当たり
 松井の打球は、ライナー性でした。松井は、日米通算507本塁打というホームラン記録を残した長距離ヒッターでしたが、20年間のプレーヤーとしての活躍の全ての期間、ライナー性の打球を放っていたと思います。
 ライナー性の打球を打つホームランバッターというのは、実は少数派のように思います。ライナー性打球の対極にある打球が、放物線打球ですが、ホームランバッターといわれる打者の大多数は、この放物線打球を放つように思います。
 例えば、NPBでいえば、王選手、田淵選手、落合選手、小久保選手といった打者が、放物線打球のホームランバッターでしょう。
 MLBでいえば、現在647本塁打を誇り、35歳というMLB史上最年少600本塁打記録を持つアレックス・ロドリゲス選手や2012年シーズンの打撃部門三冠王のミゲル・カブレラ選手も放物線打球のプレーヤーです。

 この放物線打球プレーヤーの打ち方の特徴は、ダウンスイングあるいは水平スイングにより、打球にバックスピン(後ろ回転)を掛けて、遠くに飛ばす打ち方です。ボールの芯の少し下を打つといわれます。アレックス・ロドリゲスが典型ですが、下方に向かってカットするようなスイングから、バットのプレーンとは全く異なる方向(上方)に打球を飛ばします。そして、その打球は、遠くに飛んで行くのです。こうした打ち方をする打者には、反対方向へのホームランも多いように思います。アレックス・ロドリゲスやミゲル・カブレラは右打者ですが、右中間に大きな打球を放ちます。NPBでも、三冠王三回の落合選手は、右中間スタンドに、測ったようにボールを運びました。おそらく、この打ち方が「打球を遠くに飛ばすには、最も合理的な打ち方」なのです。

 これに対して、松井の打球はライナー性でした。バットとボールが真正面から当たる打ち方で、ボールの芯を捉える打ち方です。ラインドライブがかかることも多い、ライナー性打球を放つ打者には、中距離バッターが多いのですが、まれに長距離バッターが生まれます。日本人なら松井、MLBなら、通算762本塁打を誇り、サンフランシスコ・ジャイアンツを中心にプレーした、バリー・ボンズ選手が、この打ち方でした。
 ゴツンという音が聞こえてきそうなライナー性打球で、軽々とスタンドに運ぶプレーヤーは、独特の雰囲気を持っています。松井の打ち方は「邪気を払うようなスイング」といわれました。豪快というか、フィールドの空気を一変させる一振りということでしょう。NPBの現役選手であれば、日本ハムファイターズの中田選手がこの打ち方だと思います。

 私は、松井が長くホームランバッターとしてプレーするためには、どこかのタイミングで「ライナー性打球」から「放物線打球」に切り替えた方が良いと考えていました。しかし、松井は打ち方を変えませんでした。
 ライナー性打球を打つバッター(以下、ライナー打者)が、その飛距離を伸ばしていくためには、そして、松井がMLBに渡った2003年当時、NPBのボールより飛ばないMLBのボールをスタンドに運ぶためには、筋力を増加させる必要がありました。バリー・ボンズの強烈な打球を目の当たりにした松井は、「強く叩くために」筋力および筋肉量の増加の必要性を強く感じたのだろうと思います。

 その為のトレーニングを経て、松井選手はNPB時代より遥かに大きな上半身を構築することになりました。NPB時代には90㎏弱だった体重も、100㎏を優に超える肉体になったのです。このことが、松井の選手寿命を縮めたと思っています。(縮めたことが失敗であったかどうかは、別の問題です)大きくて重い上半身を支えるために、下半身に負担がかかり、慢性的な両膝の故障を抱えるようになった形です。その点では、NPBの清原選手と少し似ているかもしれません。

 NPBのライナー打者として最も有名なのは、長嶋茂雄選手です。松井は、今朝の発表の中で最も思い出に残っている事のひとつとして、当時NPB巨人軍の長嶋監督とのスイング練習を挙げていました。試合前に、球場の監督室に籠ったり、バッティングゲージで、長嶋監督と松井選手の二人きりで、30分前後のスイング練習を行っていたのです。全ての試合の前に行っていたそうですから、トータルの練習時間は相当に多いものだったと思います。松井を巨人軍の四番に育てるために、長嶋監督が行った練習とされています。巨人軍の他の選手から見ると「羨ましくて仕方がない」特別な練習であったといわれています。

 天才的なライナー打者の長嶋監督との練習の積み重ねにより、もともと星稜高校時代もライナー打者であった松井の、ライナー打者としてのスイングが固まって行ったのだと考えています。

 余談ですが、長嶋氏が病気になる前の時期に、NPBオールスターOB戦が何回か行われ、テレビ放送されました。王貞治氏やランディーバース氏は、現役引退後相当の時間が経つのに、外野に大きな打球を飛ばします。山本浩二氏も、大きな飛球を飛ばします。バース氏などは、スタンドまで運んでいたと記憶しています。

 一方で、長嶋氏は、その何回かの試合の中で相当回数打席に入ったと思いますが、ほとんどがボテボテの内野ゴロでした。これが、放物線打球の打者(以下、バックスピン打者)とライナー打者の違いだと思います。バックスピン打者の王やバースは「ボールの飛ばし方」を熟知していますので、筋力が落ちた後も、うまくボールの芯の下を打って、相応に球を飛ばすことが出来るのですが、ライナー打者の長嶋は、筋力の低下に比例するように打球を飛ばすことが出来なくなっていたのでしょう。

② OPS(出塁率+長打率)が高い選手
 松井選手は、OPSが高い選手でした。NPB時代10年間の平均は.996と、日本プロ野球歴代プレーヤーの中でも、トップ3に入る水準であったことは、本ブログの「ミゲル・カブレラの三冠王とOPS」稿にも記載した通りです。MLB時代10年間の平均も.819と良い水準でした。MLB時代の最後の2年間のOPS、オークランド・アスレチックスの1年間が.696、タンパベイ・レイズ時代の数か月間が.435と低い数値でしたので、その2年間を含めても.819というのは、立派な成績だと思います。
 特に、ヤンキースの2年目2004年には、162試合にフル出場してOPSが.912と、メジャー屈指の強打者の数値を叩き出しています。

 松井のOPSが高いのは、もちろん長打が多いこともありますが、何より四球が多いことが要因となっています。前述の2004年には88四球という成績です。強力なヤンキース打線の一角を占め、打てなくとも四球で繋ぐ形で、チームの勝利に貢献したのです。今朝の記者会見でも、松井が再三口にした「フォア・ザ・チーム」の精神が最もよく表れている記録が、このOPSだと思います。

 また、この2004年にはレギュラーシーズン31本塁打を記録しています。日本人プレーヤーで年間30ホーマー以上を記録しているのは松井選手だけです。今後、多くの日本人プレーヤーがMLBに挑戦していくと思いますが、その挑戦者たちのひとつの目標となる記録でしょう。
 以上から観ると、MLBにおける松井選手の成績が最も良かった年は、2004年ヤンキース2年目ということになると思います。

 そして、メジャーリーガーとして脂が乗り切った2006年5月11日のボストン・レッドソックス戦1回の守備において、あの手首骨折を起こしてしまいました。この年は、9月12日には復帰し、計51試合に出場し、OPSも.887とMLB10年で2番目の数値を記録しました。あの骨折から見事に立ち直ったように見えましたが、無理が祟ったのか、翌年からは故障がちのシーズンが続くこととなりました。かえすがえすも、あのフライをワンバウンドのヒットにしておけば良かったのにと思ってしまいます。詮無いこととは解っているのですが。

③ 抜群の人気
 プロスポーツプレーヤーにとって、人気はとても大切な要素だと思いますが、松井選手のヤンキース時代の人気は凄かったと思います。当時は、1000万ドル以上の年俸でしたが、松井関連グッズの売上だけで、年俸を十分にカバーできると言われました。
 日本からの観客が急増し、入場料収入も増加したのですが、加えて、日本人の観客はお土産に松井のTシャツやユニフォームのレプリカを大量に購入していくのです。安価なものでは無いのですが、ひとりで10枚20枚と買っていくと報道されました。こうした日本人ファンからの人気が高いことは、ある程度予想されたことなのですが、松井は現地アメリカのファンからも、非常に高い支持を受けていました。

 松井は、試合の最初の打席に入る際に、必ず相手チームのキャッチャーと本塁の審判に、丁寧に笑顔で挨拶していました。この様子も、松井の人柄を良く示していると思います。こうした、物静かで穏やかな様子が受けたのでしょうか、松井はアメリカの子供たちに、とても人気があったそうです。

 今でも忘れないのですが、観客に松井グッズが数万個配られる「MATSUI Day」に、観客へのインタビューが行われていました。子供を連れたお母さんへのインタビューでした。子供はお母さんの首にしっかりと掴まって、カメラに背を向けています。お母さんは言います。「この子は、松井選手の大ファンです。少し自閉症気味なのですが、松井選手が出ている試合のテレビは必ず見て、応援します」
 そしてお母さんは、子供が着ている松井選手の背番号55がプリントされたTシャツを、捲りました。下から出てきたのは、別のデザインの松井選手のTシャツでした。「今日、何が欲しいか聞いたら、やはり松井選手のTシャツなのです。そして、嬉しそうに重ねて着ています」と。
 松井選手の人気の高さを示す事例だと思います。

 一本のホームランが、見ている人に勇気を与えるプレーヤーが、松井秀喜であったと思います。そして、そのホームランの美しさも、特筆すべきものだと思います。2006年以降は怪我に悩まされ、苦しいシーズンが続きましたが、ファンはいつも「ゴジラの復活」を祈り続けました。そして、松井選手もその期待に何とか応えようと、努力を続けました。

 引退を表明したからには、しばらくの間はトレーニング無しでゆっくりと休んでいただき、上半身の筋肉を少し落としてもらって、動けるようになってやる気が出てきたら、2014年にNPBでプレーする松井選手を観たい気もします。
 「邪気を払うスイング」を、また観てみたいものです。
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