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 9月9日に福井市の福井運動公園陸上競技場で行われた、2017年の日本学生対校選手権大会の男子100m決勝において、東洋大学の桐生祥秀選手が優勝、そのタイムは9秒98でした。

 日本人スプリンターとして、史上初めて、公式タイムとして「10秒の壁」を破ったのです。

 1998年に伊東浩司選手が、バンコク・アジア大会で10秒00をマークしてから19年を要して、日本男子100mは新しいステージに踏み出したのです。

 桐生選手のスタートは滑らかなものでした。

 号砲に対する反応タイムは普通であったと思います。100m競走において、号砲への反応タイムは「遅過ぎてはいけないが、最速である必要はない」のは、ウサイン・ボルト選手のレースが示しています。

 スタートは、走りのバランスを崩すことが無いように、滑らかに、静かに行われるのが望ましいと思いますが、このレースの桐生選手のスタートは、その基準に合ったものでした。

 スタートから20mまでの走りも、バランスの良いものでした。
 桐生選手のスタートは、ピッチ、速いピッチを追い求めるものでは無く、一歩一歩しっかりと地面を押して行くタイプです。この地面を押して行く意識が強過ぎるとピッチが落ちてしまいスピードが上がりません。今年6月の日本選手権大会の走りが、それでした。

 もちろん、こうした走りを追求し練習を重ねている桐生選手が、あるレースにおいてピッチを上げるといったプレーを行えば、体の起き上がりが早くなるなど、走りのバランスを崩す要因となりますから、決して行うことは無いのです。

 この日のレースのスタートから20mも、しっかりと地面を押しながら加速していましたが、そこに「時間のロス」は少なかった、日本選手権の時に比べて、地面を押しながら次の一歩に移る過程がスムースであったと感じます。力みが無かったことも影響しているのでしょう。
 上体も滑らかに立ち上がりました。

 そして20mから40mの走り、そして40mから60mの走りに入りました。
 このレースで「最も素晴らしい」部分であったと感じます。
 この40mの走りは見事でした。

 おそらくこのレースで桐生選手のスピードがピークであったのは、40mから45m付近では無かったかと思います。
 30m付近から、桐生選手の腕振りがスピーディになり、下半身も力強いが力みが無い走りが続きましたので、ぐんぐんと加速しました。40mから50mでは、秒速11m60cmを超えるスピードが出ていたのでしょう。
 現在の桐生祥秀選手がイメージしている通りの走りが出来ていたのではないでしょうか。

 60mから80mでは、やや力みが見えました。
 今後の課題となる部分でしょう。
 それでも、バランスを崩す寸前で踏み止まり、80m以降の走りに結び付けました。

 80mから100mでは、再びリラックスした走りに戻り、力強いが滑らかなランニング、大きなストライドの走りを示現しました。

 ゴールではフィニッシュ姿勢を取りませんでした。

 勝利を確信したことも有るのでしょうが、「上手く走れた時フィニッシュは取らないことが多い」という、一流スプリンターの在り様、であったのかもしれません。

 1964年東京オリンピックのヘイズ選手や1968年メキシコシティオリンピックのハインズ選手、2008年北京オリンピックのボルト選手など、良い走りが出来た時、世界のトップスプリンター達は「フィニッシュ姿勢を取らなかった」のです。
 「ハイスピードが維持されている時」、スプリンターはフィニッシュを取ることを忘れてしまうのかもしれません。

 「ただ走り抜ける」ゴールインのフォームが、このレースにおける9秒台の実現、「10秒の壁を破った瞬間」の姿勢であったのかもしれないと思います。

 追い風1.8m、公認記録となります。

 速報タイムは9秒99、正式タイムを待つまで、桐生選手も観衆も固唾を飲んで待ちました。
 1998年のアジア大会、伊東選手の時も、速報タイムは9秒99だったのです。それが、正式計時では10秒00・・・。

 福井運動公園陸上競技場の掲示板の9秒99の表示が一度消え、再び掲示されました。
 「9秒98」。
 桐生選手が喜びを爆発させました。
 場内に大歓声が響き渡りました。

 「やっと世界のスタートラインに立てたと思う」と、桐生選手はレース後のインタビューに応えました。
 その通りなのでしょう。

 このレースで10秒07の好タイムで2位に入った多田選手や、サニブラウン・アブデルハキーム選手、ケンブリッジ飛鳥選手、山縣選手と、日本の男子100m陣は多士彩々です。
 こうした記録は、誰かが壁を破ると次々と後に続く性質のものですから、今後のライバルスプリンター達の活躍が大いに期待されるところです。

 それにしても、「桐生 9秒98」は、各テレビ局でニュース速報が流され、多くのテレビニュースの最初の報道に採り上げられ、9月10日の朝刊一般紙各紙の1面トップを独占する「大ニュース」となりました。
 ニュースバリューの巨大さを示すと共に、100m競走における「10秒の壁の厚さ」を、まざまざと感じさせるものでした。
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