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 手は多くのスポーツで重要な役割を果たします。様々なスポーツの、様々な道具を持つのも手と手の指です。野球のバットやグローブ、テニスや卓球のラケット、アイスホッケーのスティック、剣道の竹刀、アーチェリーや弓道の弓、砲丸投げの砲丸、やり投げの槍、円盤投げの円盤、ゴルフのクラブ、などなど挙げて行けばキリがありません。手と手の指は、スポーツにおけるテクニック・技術と観点から、極めて大きな役割を果たしています。

 では、「足の指」はどうなのでしょうか。色々な見方があると思いますが、私は足の指も、手の指と同じ位、重要な役割を果たしていると考えています。

 私に、足の指(以下「足指」)の重要性を感じさせてくれたアスリートは、大相撲の横綱朝青龍関でした。大相撲は、裸足で行う数少ないスポーツのひとつですので、足指の動きが良く分かります。
 朝青龍以前の大相撲でも、土俵際の粘りのシーンなどで、足指がどんな動き・役割を果たしているのかを見ることが出来ました。しかし、朝青龍が凄いと思ったのは、土俵の真ん中でも足指が良く動き、次の動きに大きな影響を与えていたからです。

 例えば、土俵中央でがっぷり四つの体制になったとします。朝青龍の両足の指は土俵表面をがっちり掴みます。足指の間から、土俵の砂が溢れ出て来るほどに掴むのです。そして、よく動きます。相手力士はというと、全くそうした動き・様子はありません。1960年台から、沢山の力士を観てきましたが、がっぷり四つの体制でこれほど足指を使う力士は、初めてでした。

 朝青龍関は、大相撲史上最も動きが速く、動きにキレがある力士、常に自身の重心を移動させながら、相手力士のバランスが崩れる瞬間を捉えて勝負する力士であったと思いますが、そのスピード・キレの一因は、足指にあったと考えています。

 朝青龍が土俵を去った今、大相撲界にこれほど足指を自在に使う力士は存在しません。朝青龍以前であれば、横綱千代の富士が相当活用していたと思いますが、この点だけでいえば朝青龍の方が上であったと思います。

 仕切りが続き、時間一杯となった時、塩を取りに行った朝青龍が土俵に振り返った瞬間の姿は、いつも印象的でした。やや前に重心がかかり、爪先立ちとまっすぐ立っている状態の中間位の姿で、膝を少し曲げて、力みなく立っているのです。「いつでも前方に圧力をかけることができる姿勢」です。この姿だけでも、超一流アスリートを感じることができますし、プロスポーツプレーヤーとしての素晴らしさを感じます。

 踵をべったりと土俵に付け、膝を伸ばして堂々と立つ、例えば稀勢の里関のような形も、重厚な感じで良いのですが、受け身というか、前に出る力をあまり感じさせないものです。

 どちらの姿勢も「あり」なのでしょうが、朝青龍の「前掛かりの姿勢」は独特のもので、何とも言えない迫力を感じさせるものでした。この前掛かりの基本姿勢と、足指の自在活用により、朝青龍関の史上最強レベルの相撲が出来上がっていたと考えています。

 他の競技でも、足指活用の話を聞くことがあります。日本プロゴルフ黎明期の名プレーヤー中村寅吉選手が「調子が悪くなると、裸足で練習ラウンドをする」とコメントしていました。「フェアウェイもバンカーも裸足でプレーすることで、足指が地面を掴む感覚を取り戻すことができる」「シューズを履いた後も、裸足の時の様に足指を使います。地面をしっかりと掴むのです」と。

 ゴルフ競技において、スイングの際に、体をしっかりと維持することが重要なことは明らかです。その感覚を、中村寅吉プロは裸足のプレーで確認していたことになります。現在でも、有効なトレーニング方法なのではないでしょうか。

 もうひとつゴルフの話ですが、往年のアメリカの名選手ウォルター・ヘーゲン*の「足がデカイやつを連れてこい。おれが世界一のプレーヤーに育ててやる」という言葉が有名です。ゴルフが上手くなるにはどうしたらよいか、という問いに対する答えだったと記憶していますが、ヘーゲンにとっては「足が大きいこと」が最重要ポイントだったのでしょう。地面をしっかりと掴み、バランスを維持することが、ゴルフ競技にとって大切なことなのです。
(*ウォルター・ヘーゲン選手。球聖ボビー・ジョーンズと同世代の名プレーヤー。まだマスターズトーナメントが始まっていなかった時代に、全米オープン2回・全英オープン4回・全米プロ5回のメジャー計11勝と、ジャック・ニクラス18勝、タイガー・ウッズ14勝に次ぐ歴代3位の記録保持者。現在より試合数が少なかった時代のPGAツアーで通算45勝という、ゴルフ史上最強プレーヤーのひとり)

 また、サッカー競技はシューズを履いてプレーするために、プレーの際に足と足指がどのように動いているのかを見ることができません。とても残念なことです。信じられないようなプレーを魅せる選手たちの、シューズの中の足の動きを観てみたいものです。

 1970年前後に活躍した、西ドイツのミッドフィールダーMFにギュンター・ネッツァーという名手が居ました。同時代の西ドイツには、皇帝と呼ばれたMFフランツ・ベッケンバウアーが居ましたから、この頃の西ドイツ代表チームは、二人の世界的なMFが交互に試合に出場し活躍していたと記憶しています。(この頃の西ドイツ代表チームが、世界最強と呼ばれていたのも、頷ける話です)

 このネッツァー選手のパスが、信じられない程曲がるのです。そしてネッツァーのシューズはとても大きかった=足がとても大きかったのです。あの大きな足と足指を、足首や膝、腰との連動した動きの中で、自在に使うことで、ネッツァーは考えられないようなプレーを展開したのでしょう。観ていてワクワクするプレーヤーでした。
 今風に言えば、ファンタジスタということなのでしょうが、逆に言えば、ネッツァー選手レベルのプレーを展開できないプレーヤーを、ファンタジスタなどと呼ぶべきではありません。

 この他でも、例えばMFならフランスのジネディーヌ・ジダン選手やフォワードFWなら現役のアルゼンチンのリケルメ・メッシ選手のプレーを透明なシューズで観てみたかったし、観てみたいと思います。おそらく、足と足指は凄い動きを魅せてくれていると思います。

 そして、ラグビー競技。私は、ラグビーこそ、この足指の力の違いが、我が国と世界のトッププレーヤーの、最も大きな差ではないかと考えています。

 例えば、真っ直ぐ押す力であれば、大型化してきた日本人プレーヤーでも十分に海外のプレーヤーに対抗できるようになってきたと思うのですが、これが左右の動きが伴うと、なかなか対抗するのが難しいように観えます。
 スクラムやラック・モールといったプレーや、スクラメイジ局面で、どうしてもパワーの差が生じて、結果として大差に繋がる。そのパワー差の最大の要因が「足の大きさと足指の力」であると思うのです。

 ニュージーランドや南アフリカ、オーストラリア、イングランド、フランスといった、世界のラグビーをリードする国々のプレーヤーは、おそらく足が大きく、足幅がとても広く、足指が長くて太いのでしょう。こうしたトッププレーヤーが、足裏と足指でしっかりと地面をホールドしながら、上下左右に重心を移動させつつ前進してくるのです。こうしたプレーヤーを止めたり、コントロールすることは、極めて困難なのだろうと想像します。

 足指は、全てのスポーツ競技において極めて重要な役割を果たしていると思います。我が国の各競技のプレーヤーの足を急に大きくすることはできませんが、ライバル国の足指を存分に活用したよるプレーの特徴を研究し、各々のプレーにおける重心位置を味方有利に動かしていくことで、世界に通用する日本独特のプレーを創造していくことは、十分に可能なことだと考えます。

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