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HOME   »   ゴルフ  »  [PGA] ラリー・マイズのマスターズ・トーナメント
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 2013年の第77回マスターズ・トーナメントも美しい舞台で激戦が展開されています。今年は、ラフがやや長いセッティングになっています。こうしたセッティングの年は、グリーン周りの斜面の芝が刈り込まれていませんから、通常なら池に転がり落ちてしまうようなミスショットでも、ラフに救われる場合が出てきます。
 
 マスターズ・トーナメントでは、ラフが長い年の方がスコアが伸びることがあります。通常のトーナメントとは反対の傾向です。最終日の勝負どころで、12番のパー3の池や13番パー5のクリークなどで、いつもなら落ちてしまうボールがギリギリ止まるといったシーンが見られそうな気がします。

 マスターズでは、これまでも様々な素晴らしいゲームが繰り広げられてきました。挙げて行くとキリが無い程ですが、本稿では1987年の大会を見てみたいと思います。

 この年は、全体にスコアが伸びず、72ホールをプレーし終わって、セベ・バレステロス、グレグ・ノーマン、ラリー・マイズの3選手が3アンダーで並び、プレーオフに突入しました。プレーオフは10番ホールからのサドンデスプレーです。

 セべ・バレステロス、グレグ・ノーマン、ラリー・マイズの3選手を比較すれば、この当時であれば、実績ではセベが優勢。この年までに、既にメジャートーナメントに4勝(マスターズ2勝、全英オープン2勝)していましたから、この頃の世界最強プレーヤーであったと思います。思い切りの良いショットが特徴で、トラブルからのリカバリーなどは、信じられないようなテクニックを度々魅せていました。
 スペイン生まれの陽気なプレーヤーで、ショット前後の仕草にも躍動感が溢れていましたし、親日家で日本オープンでも2勝していますから、日本のファンにも馴染の深いプレーヤーでした。
 残念ながら腰を痛めたために、本来ならば全盛時を迎える30代半ば位から、急速にトーナメントに勝てなくなってしまいました。

 19歳で欧州賞金王となり、22歳で全英オープンに優勝、そして当時の最年少記録であった23歳でマスターズ・トーナメントを制したときには、「天才」の名を欲しいままにしたプレーヤーでした。
 故障なかりせば、史上最強プレーヤーの一角を占める実績を残せたものと考えています。

 また、オーストラリアのグレグ・ノーマンは、前年1986年の全英オープンでメジャー初優勝を飾り、全盛時を迎えていました。こちらは豪快なスイングとアグレッシブなプレーが特徴でした。
 4大メジャートーナメントには不思議と縁が薄く(2位が8回もあります)、全英オープンに2度優勝しているだけですが、PGAツアー18勝、欧州ツアー20勝を始めとして、世界中のトーナメントで活躍、世界ランク1位を331週間に渡って維持(タイガー・ウッズに次いで史上2位の記録)するなど、「ホワイト・シャーク」の愛称で、トッププレーヤーとして長く君臨しました。
 日本ツアーでも、中日クラウンズと三井住友VISA太平洋マスターズの二つのビッグトーナメントで優勝しています。

 前述の2人に比べると、3人目のプレーオフ進出者、アメリカのラリー・マイズは、実績・人気共に見劣りする点は、止むを得ないところでした。プレー振りも、前述の2人に比べれば冷静・沈着、別の言い方をすれば「地味」なプレーヤーでした。
 マイズに有利な点があるとすれば、出身がアメリカ・ジョージア州オーガスタという、地元中の地元「ザ・ホームの大会」ということぐらいでした。

 従って、プレーオフに入った時には、多くのパトロンやテレビを見ていた(私の様な)世界中の視聴者は、セベとノーマンの争いだろうと観ていたと思います。

 しかし、最初の10番ホールでセベ・バレステロスはボギーを叩き、あっさりと脱落しました。

 続く、11番ホールは有名な「アーメン・コーナー」の最初のホールです。ティーインググランド方向から見て、グリーンに被さるように左側に大きな池があり、グリーンが池に向かって相当な角度で傾斜しています。従って、プレーヤー達は第二打をグリーンの右端に向かって打っていきます。池には絶対に入らないようにするのです。当時は、グリーンの右側に少し外すショットでも、十分に許容範囲内というホールでした。

 さて、ノーマンとマイズによるプレーオフが続きます。

 マイズのセカンドショットは、グリーンの右奥に大きく外れました。距離が合わなかったというか、やや大きめに打っていくことで、絶対に池に入れまいというショットだったかと思いますが、それにしても大きすぎた感じで、ピンまでは40ヤード前後はあったと思います。

 ノーマンのセカンドショットは、当時のプレーとしては最高のショットに近いもので、グリーン右サイドをヒット、ピン真横15ヤード位のグッドショットでした。ノーマンが圧倒的に有利な状況です。

 マイズのアプローチショットは、とても難しいショットになりました。何しろ、ピンに向かって打っていくということ=池に向かって打っていくことなのです。加えて、グリーンは池に向かって、相当な角度で傾斜しています。アナウンサーと解説者は「絶対に寄らないショット」「少しでも強ければ池まで行ってしまうショット」と再三コメント。絶望的と言わんばかりです。
 
 この頃のTBS東京放送のマスターズ・トーナメント中継のゲスト解説プロは、陳清波(ちん せいは)プロでした。1931年生まれの台湾出身のプレーヤーで、1959年の日本オープンチャンピオン、日本ツアー通算13勝の名選手です。そして、世界への挑戦という意味ではアジア人プロゴルファーの草分け的な存在でもあり、マスターズ・トーナメントに6回も出場しているのです。
 当時のアメリカゴルフ界から見れば、アジア人としては最高のゴルファーという位置付けであったと思います。その頃の台湾のプロゴルフは、日本は勿論として、アジアのゴルフ界をリードする存在だったのです。

 本稿のマスターズ大会が開催された1987年頃は、尾崎・青木・中島といった我が国を代表するプレーヤー達は現役バリバリの頃でしたから、「マスターズ・トーナメントの出場経験が豊富で、解説を行える立場にある日本人プロ」は存在しなかったのでしょう。毎年、陳プロが解説を行っていました。また、「花ある、木ある」といった軽妙な語り口も、味わい深いものでした。
 
 その陳清波プロは「こういう時は、思い切って行くと良い結果が得られます」とコメントしました。グリーンの角度や速さばかりを考えていた時に「思い切って行くと良い」とは、禅問答みたいな話だと感じたことを憶えています。

 プレーオフも2ホール目でしたから、だいぶ暗くなっていた記憶しています。

 ラリー・マイズが、アプローチショットを打ちました。グリーン手前で2バウンドして、グリーンに乗り、ボールは転がります。ピンに向かって真っすぐに転がって行きます。グリーンが池に向かって傾斜していますから、ボールは中々スピードダウンしません。どちらかというと加速しているような感じです。「大きい」と思いましたし「相当ピンをオーバーする、ひょっとすると池まで届いてしまうかもしれない」とも思いました。

 ボールは、そのまま、相当のスピードで、ピンに向かって真っすぐに転がり、ピンを直撃、カップインしました。チップインバーディ!
あれ程のスピードでもピンに弾かれなかったのですから「ピンの芯を食った」のでしょう。まさにミラクルショットでした。

 その瞬間、オーガスタの森には大歓声が響き渡り、ラリー・マイズは両手を握りしめて、何度もジャンプし、喜びを全身で表現しました。普段、物静かなプレー、冷静・沈着をモットーとするマイズとしては、珍しいパフォーマンスでした。生涯唯一のパフォーマンスだったのかもしれません。

 陳プロは「ね、思い切って行くと良いことがあるでしょう」とコメントしています。
 ところが、アナウンサーと解説者は、陳プロの言葉に反応しようともせず、「今のショットは強すぎましたよね」「入らなければ、池まで行っていたでしょう」などと、まるでミスショットであったようなコメントです。

 見事なチップインバーディを目の当たりにしながら「強すぎた」などと、言い訳がましい説明を必死に繰り返している様子は、言葉は悪いのですが、見苦しい限りで、所詮は素人のアナウンサー・解説者であることを、まざまざと見せつけました。みっともないから喋るのをやめてもらいたいと感じたものです。

 おそらく、マスターズ大会史上屈指のスーパーショットであり、「まさにそのショットで優勝が決まった」という意味では、史上最高にスリリングなショットであったわけですから、まずはラリー・マイズのプレーを大絶賛し、陳プロのコメントに敬意を表し、そのコメントを深堀りして行けば、ゴルフの神髄に迫る素晴らしい放送になったと思います。
 テレビ放送史上に残る名放送を展開するチャンスであったにもかかわらず、その機を逃してしまったのです。それどころか、残念な放送として、多くの視聴者の記憶に残ってしまっている可能性があります。

 一方、陳清波プロは、さすがでした。世界の第一線で戦ってきたトッププロの本物のコメントを聞かせていただいたと思いました。「こういう時は、思い切って行くと良い」という心持こそ、最高技術を身に付けたプレーヤーならではの「踏ん切り」なのでしょう。本当の意味は、その高みに立ったことがある人にしか解らない、単純な、しかし味わい深いコメントでした。

 スーパーショットを見せつけられてしまったグレグ・ノーマンは、難しい15ヤード位の大きなフックラインのパッティングに挑みましたが、残念ながら入りませんでした。カップ横を通り過ぎたあと3~4.m池に向かって転がっていました。グリーンが、池に向かって相当に傾斜していることを示していました。

 これで、ラリー・マイズの優勝が決まったのです。

 マスターズ・トーナメントでは、沢山のスーパーショットが生まれてきました。どれもこれも信じられないようなショットばかりですし、本当に素晴らしいショットばかりです。
 しかし、その中でも最も信じられないようなショットが、このラリー・マイズの11番ホール・40ヤードのアプローチであったと思います。

 オーガスタ生まれのプレーヤーに、オーガスタの神がほほ笑んだ「奇跡のショット」でした。
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