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HOME   »   競馬  »  [競馬コラム53] ハイセイコーのNHK杯
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 NHK杯競走というのは、現在のNHKマイルカップの前身となったレースです。1953年・昭和28年から1995年までの43年間に渡って、東京競馬場の芝2000mで行われた3歳馬限定のレースでした。

 NHK杯は、東京優駿(日本ダービー)競走のトライアルレースという位置づけでした。

 我が国でテレビ放送が開始された昭和28年・1953年、NHKは日本ダービーの放送を企画しましたが、その際に、日本ダービーの放送に注目が集まるように、それまでなかった日本ダービーのトライアルレースをNHKの冠名を付けて創設しようということになり、中央競馬会もこれを認め、NHK杯が始まりました。

 NHK杯創設当初は、その年の皐月賞馬を始めとする3歳有力馬が参戦しましたが、次第にNHK杯の優勝馬は日本ダービーには勝てなくなりました。競馬全体のレベルアップもあってか、中二週のローテーションで大レースを2つ使うのは、3歳馬には厳し過ぎるということになり、日本ダービー制覇を目指す有力馬はNHK杯への出走を回避するようになったのです。NHK杯のレースの格式が次第に下がって行きました。

 丁度その頃、外国産馬は日本ダービーに出走できませんでしたから、外国産馬が出走できるG1競走を創設しようとする動きと、NHK杯の再興を目指す動きが相まって、1996年にNHKマイルカップが創設されました。NHKマイルカップは、その名称が確定するまでの間「(仮称)NHKマイルダービー」と呼ばれていたのは、そのためです。

 2000年に日本ダービーが、外国産馬に開放されるまでの4年間、僅か4年間でしたが、NHKマイルカップには、世代最強の外国産馬が集まりました。1997年にシーキングザパール、1998年にエルコンドルパサーが優勝していますが、この2頭のその後の大活躍が、この頃のこのレースのレベルの高さを証明しています。

 さて、話をNHK杯に戻します。ダービートライアル時代のNHK杯には、1970年代までは、皐月賞優勝馬や日本ダービーを目指す3歳有力馬が集いました。幾多の名馬が挑戦したレースでしたが、やはり外すことができないのが、1973年の第21回NHK杯「ハイセイコーのNHK杯」であると思います。日本競馬史に残るレースでした。

 大井競馬場所属であったハイセイコーが、そのあまりの強さから中央競馬に進出し、1973年の弥生賞、スプリングステークス、そして皐月賞と勝ち続け、地方競馬と通算して9連勝としました。そして、NHK杯に駒を進めたのです。

 1973年・昭和48年は、日本の高度成長期のピークの年でした。昭和40年代に我が国は驚異的な成長を続け、国民の所得も倍増していました。絵に描いたような好景気の時代だったのです。こうした時代の流れに乗ったのでしょうか、地方から出てきた競走馬が中央のエリート馬達に勝ち続けるという状況のせいなのでしょうか、510㎏を超える黒鹿毛の立派な馬体のせいでしょうか、大変なハイセイコーブームが起こったのです。

 この時のブームは、中央競馬史上空前絶後のものでした。競馬ファンはもちろんとして、それまで全く競馬を知らなかった人々も、ハイセイコーに注目し、競馬場に足を運び、テレビ放送を食い入るように見つめました。我が国で、一部のファンのためのギャンブルとも言われていた競馬が、市民権を得たのはこの時であったと思います。

 そのハイセイコーブームのひとつのピークが、NHK杯競走でした。9連勝のハイセイコーが、府中の東京競馬場に初めて登場するのです。ハイセイコーが負けるなどと考える人は、ほとんど居ませんでした。
 東京競馬場には16万人を超える観客が集まり(当時の新記録)、単勝支持率は83%であったと記憶しています。

 レースでは、ハイセイコーがいつものように好位に付けて、馬群が4コーナーを回ります。長い府中の直線です。
 ところが、ハイセイコーが伸びて来ないのです。直線半ばになっても、ハイセイコーは4・5番手です。フジテレビの盛山アナウンサーが叫びます。「ハイセイコー、あと200だ、あと200しかないよーん」。

 残り200m。ここからのハイセイコーの伸び脚は驚異的でした。外を走るディクタボーイを抜き去り、内のカネイコマを一完歩毎に追い上げて、アタマ差交わしたところがゴールでした。場内に響き渡っていたもの凄い悲鳴が、大歓声に変わりました。ハイセイコーは、勝ったのです。

 単勝配当は100円。100円元返しでした。110円、120円というレースは多々ありますが、これだけの大レースでの100円元返しは珍しいものです。中央競馬では、単勝支持率が75%を超えると元返しになると聞いていますが、このレースでのハイセイコーの単勝支持率はこれを遥かに上回るものだったのです。
 馬券はギャンブルなのですからクレームが出そうなものですが、100円元返しでもファンは大満足していたように、私には感じられました。「ハイセイコーの勝利」が、大多数のファンに取って最重要ポイントだったのでしょう。

 これで10連勝となったハイセイコーに「死角は無くなった」と言う専門家も数多く居ましたが、ファンはしっかりと現実を把握していたのでしょう、次の日本ダービーのハイセイコーの単勝支持率は66%に下がりました。ファンの不安・疑いが表れています。そしてハイセイコーは、日本ダービーで3着に敗れるのです。

 その後も、スーパーアイドルホースとしてのハイセイコー人気は続きましたが、その人気は「判官贔屓」に近いもので、NHK杯時の「神を崇拝」するような人気とは異なるものであったと思います。

 このレースのフジテレビの放送は、本当に名放送であったと思います。悲鳴が渦巻く東京競馬場で「あと200しかないよーん」という名文句。ファンの気持ちを本当に良く表していました。
 これからも中央競馬の沢山のレースがテレビ放送されると思いますが、「よーん」というアナウンスを聞くことは2度と無いと思います。いかに凄いレースであったか、良く解ります。
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