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HOME   »   大相撲  »  [大相撲2019・3月場所・7日目] 荒磯親方の解説
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 元横綱・稀勢の里・荒磯親方が、NHK大相撲放送の解説に初登場しました。

 現役時代は無口な印象で、勝っても負けても「ぶっきらぼう」な感じでした。
 もちろん、この「ぶっきらぼう」な感じは、大相撲の力士に共通した物腰です。
 大きな体で、とても「強い存在」として、時には神事の対象ともなる「力士」が、ペラペラと喋るのでは、やや軽薄のそしりも免れないでしょうから、力士は無口というのが相場となっているのでしょう。
 これは日本文化の一端と言っても良さそうです。

 その無口な力士の典型であった荒磯親方が、テレビ放送の解説者としては、必要十分な言葉数でとてもしっかりとした解説をしたという評判です。
 確かに、聞き取り易い口調・言葉づかいで、引退したばかりの横綱として様々な情報や取組分析・評価を披露していました。
 横綱・白鵬が絶賛したとも伝えられている、立派な解説だったのです。

 大相撲の解説と言えば、21世紀においては北の富士勝昭氏が第一人者でしょうが、その北の富士氏も76歳ということで、「後継者」が待たれる状況です。
 
 今般、解説者デビューを果たした荒磯親方は、次代を担う大相撲解説者になれるものなのでしょうか。

 大相撲に限ったことではありませんが、スポーツのライブ放送の解説に必要な要素を考えてみましょう。

① ストック解説

 解説者自らの現役時代の経験を元に話を進めるやり方です。
 この日の荒磯親方の解説でも、現役を引退したばかりの親方として、自らの対戦相手としての各力士に付いて、その経験を活かした解説が数多く登場しました。

 例えば、阿武咲の取組の際には「阿武咲関は、肩甲骨が柔らかい。普通の力士より10cm・20cmは手が前に出るのではないか。今後の活躍が期待される力士です」と説明していましたし、嘉風の時には「嘉風関は相手力士の研究が凄いので、自分も良く話を聞きに行っていました」と解説しました。
 とても興味深い話が多かったと感じます。

 こうした「最高レベルのプレーヤーによる、自身の経験を元にした、具体的なコメント」というのは、一般の人や一般のメディア関係者には到底分からないこと、知らないことが披露されますので、豊かな内容の話になる場合が多いのです。
 「深遠な経験」を上手に説明されれば、多くの人が感心するのは自然なことでしょう。
 いつも書くことで恐縮ですが、「本物」は素晴らしいのです。

 話の内容のレベルが高いことはもちろんとして、それを平易に口述できることがポイントです。
 プレーヤーの頃から「よく考えて、事に臨んでいた」ことの証にも観えます。
 ただ闇雲にトレーニングをし、試合を戦っていたのでは、解説者としての責任を果たせるレベルの解説は、難しいのではないでしょうか。
 当然のことながら、「解説者になるための才能」が存在し、その才能を保持し、磨いて行ける人しか、長期間の解説者という仕事を全うすることは出来ないのでしょう。

 さて、話を戻します。

 この「ストック解説」は、それまで「知らなかったこと」が披露されるので、とても面白いのですが、ストック解説だけでは「長く解説者を続けることが出来ない」のも当然のことになります。
 「経験の在庫が尽きてしまえばストック解説が出来なくなる」からです。

 従って、「ストック解説」のみの解説者は、現役引退後しばらくの間は解説者としての仕事を熟すことが出来ますが、引退後1年・2年と月日を重ね、共にプレーしていた選手が居なくなると、その解説者も試合・番組において「面白い話」をすることが出来なくなってしまい、解説者としての引退?、早期の引退を迎えることになるのでしょう。

 現役引退後、10年以上の長きに渡って解説者を務めている北の富士氏などが、ストック解説以外の解説手法を身に付けていることは明白です。

② フロー解説

 ストック解説に対する、もうひとつの解説が「フロー解説」だと思います。(勝手に呼称を付けています)

 フロー解説は、眼前で行われているプレーに対しての説明です。
 「当該スポーツに関する高い見識」をベースに、ひとつひとつのプレーに対してコメントするのです。

 フロー解説においてポイントとなるのは、その解説内容が「視聴者・観戦者に理解される、納得していただける」ものであるかどうかでしょう。
 専門的な用語を駆使して、視聴者や観戦者に分かり難いコメントを並べるのでは、良い解説者とは言えないでしょう。ここが難しいところなのです。

 素人でも分かるような「初歩的な内容」では、視聴者・観戦者を唸らせることはできませんし、そんな当たり前のことを聞きたいと思っている人は居ない(別に解説者は要らない形)のですが、一方で、何を言っているのか分からないような複雑な話、分かり難いコメントというのも、プロの解説者としては回避しなくてはなりません。

 例えば、サッカー競技のゴールシーンで、そのゴールが生まれた要因、キーとなったプレーを的確に説明することが、フロー解説に求められるものとなります。

 この日の荒磯親方の解説は、自然なことながら、ストック解説が多かったのですが、フロー解説に繋がる解説もありました。
 例えば、高安の取組の時、「今場所は、腹の出方が良いので好調」であるとコメントしました。「腹の出方」というのは、上体の角度や腰の据わり方、筋肉の動き方等々によって、毎場所異なるもの、同じ力士でも毎場所異なるものであることを解説していただいたものだと思いますが、とても良い解説だと感じました。

 「腹に乗せて押し出した」といった解説は、これまでも耳にしたことが有りましたが、「腹の出方」というのは新鮮です。
 このコメントは、長い間一緒の部屋に居て、高安と日々の稽古を積み重ねてきた荒磯親方ならではの、荒磯親方でなくては知らない知識・経験をもとにしたものですので、広い意味ではストック解説なのでしょうが、それを現実の眼前の取組・取口に展開するとなれば、フロー解説の側面も持ち合わせていると考えます。

 もちろん、フロー解説といっても、自身の高度な知識・見識・経験をベースにして行われるものですが、それらを元に、視聴者・観戦者に「なるほど」と感じさせる解説にするためには、相応のノウハウが必要でしょうし、センスが不可欠なことは言うまでもないでしょう。
 解説の仕事を続けて行く中で、「こうした表現の仕方」が視聴者・観戦者に分かりやすくて「受ける」ことを学び、そのセンスを良い方向に拡大して行く努力が重要なことも言うまでもないでしょう。
 プロの解説者となるためには、日々の修練が必要なことは言うまでも無いことで、とても大変なことだと思います。

③ 軽妙な感想コメント

 上質な解説を行って行く上で、最も難しいのが「軽妙な感想コメント」だと考えます。

 例えば、北の富士氏の場合であれば、解説の合間に「いまのは良かったね」とか「これはダメでしょう」といったコメントが時々入ります。まさに「北の富士の解説」のアイデンティティと呼んで良いと思いますが、この「感想コメント」が視聴者・観戦者にとても受けるのです。

 こうした「軽妙な感想コメント」を積み重ねていく中で、通常ではなかなか言いにくいこと、批判的な解説も、自然に行うことが出来るようになります。
 例えば、「こんなに良い成績でも三賞が取れないの?協会もケチだね」といったコメントは、北の富士氏ならではのものでしょう。
 14日目を終えて10勝以上の白星を積み上げている力士が、三賞選考委員会の検討対象にも上らなかったことに付いて、北の富士氏としては不満が有るのでしょうが、それを軽妙に表現しています。
 もちろん、こうしたコメントはいきなり言っても違和感が有ると思います。「いつも言っている」から通るといった側面もあるのでしょう。長く解説者を務めているから言えることであり、一方で、こうしたコメントを言うことが出来るから長く解説者を務めることが出来るとも言えるのでしょう。

 そしてこの「軽妙な感想コメント」が、プロの解説者にとって最も難しいものであることは間違いありません。
 正確で分かり易いプレー解説を続けて行く中で、軽妙なコメントによって視聴者・観戦者をより楽しませる形、「解説のエンターティンメント性を高める手法」だからです。

 「軽妙な感想コメント」は、スポーツの解説者に求められる「最高峰の技術」として、特にプロの解説者にとっては不可欠な技能であろうと思います。
 今風に言えば「AIには難しい領域」なのでしょうから。

 大相撲2019年3月場所7日目の荒磯親方の解説は、とても興味深く、とても面白い解説でした。
 テレビ観戦を、より楽しいものにしてくれたのです。

 これからも時々、解説者として登場していただきたいものです。
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