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[1月12日・東京両国国技館]
○炎鵬-(下手投げ)-宝富士●

 体格が全く違うプレーヤー同士が同じ条件で戦う=階級制が存在しない、のが大相撲の特徴のひとつなのですが、炎鵬が土俵立つたびに、「こんなに大きな人と戦って大丈夫なのだろうか」と感じてしまいます。

 この日の対戦相手・宝富士と仕切りをしている姿も、そうでした。

 炎鵬は、体重99㎏と報じられていますが、本当は90㎏くらいしかないのではないかと思います。

 立合いから、炎鵬・宝富士双方が、少し相手力士と距離を取りました。まわしを取りに行かなかったのです。
 10cm単位のやり取りが続いて、宝富士が左上手まわしを取った瞬間から相撲が動きました。
 炎鵬もほぼ同時に、右前みつを取ったのです。

 取組前の解説で、舞の海氏が「宝富士は学生相撲の経験から『小さな力士を相手にするのに』慣れています」と説明されていましたので、宝富士にとっては左上手を取れば十分という体制だったのでしょう。

 一方で、炎鵬にとっても右前みつは得意な形です。
 ここから宝富士の体の下に「もぐりこみ」ました。

 炎鵬の相撲を観ると、よく出てくる形なのですが、首がとても苦しそうです。
 変に動くと、首が折れてしまうのではないかと心配します。
 第一、土俵面が眼の前なのです。

 この体制でやり取りが有った後、炎鵬が前に出ます。とても苦しそうな体制で、宝富士に圧力をかけるのですから、観衆の心配は、ますます増加します。

 そして、機を観て頭を抜き、左からの下手投げ。
 これが豪快に決まりました。

 国技館は、割れんばかりの大歓声。

 炎鵬が勝ったのです。

 大銀杏が結われていたことが分からない程、炎鵬の髪は乱れています。


 現在の大相撲において、人気NO.1力士は炎鵬です。
 土俵入りの時から、声援の大きさはスバ抜けています。

 それもそのはずで、「炎鵬の相撲は面白い」のです。

 小さな力士が大きな力士を倒すという、「小よく大を制す」というベーシックな視点はもちろん有るのでしょうが、それ以上に、よく考えられた取口で懸命にプレーする姿が、共感を、大きな共感を生むのでしょう。

 お客様に喜んでいただく、楽しんでいただく、ことが、プロスポーツにとって最も大切なことであるとすれば、炎鵬は、現在の大相撲界において、最も「プロフェッショナルなプレーヤー」ということになります。

 もちろん炎鵬は、圧倒的に強い力士ではありません。
 前述のような必死の土俵の中で、勝ったり負けたりを繰り返すのです。
 取組前に考えていた取り口が上手くいかなかった時には、あっさり負けることもあります。というか、珍しくなく有ります。
 そうすると、大観衆はとてもガッカリします。

 しかし、炎鵬の人気はいささかも衰えません。
 「明日は面白い相撲を魅せてくれるだろう」とファンの誰もが思い、炎鵬はその期待に応えるのです。
 凄い力士だと感じます。

 勝とうが負けようが、観客に面白いプレーを披露する、という、プロスポーツの本質を炎鵬は示現しているのです。

 勝つこと、好成績を残すこと、優勝することも、観客を楽しませる要素なのですが、それ以上に重要な要素を、炎鵬は実行しているのでしょう。

 プロ野球の読売巨人軍には有名な言葉があります。チーム是と言って良い言葉ですが、「巨人軍は強くあれ」というのです。
 「巨人軍は勝たねばならない」という言葉では無いところが、プロスポーツの本質を表しているように感じます。
 「強くなければ、お客様に楽しんでいただくことは出来ないが、必ず勝たなければならないというものでは無い」、相手チームとの試合の中で、お互いに素晴らしいプレーを披露して、お客様に楽しんでいただく、最高のエンターティンメントを提供することこそが、プロスポーツのあるべき姿である、ということなのでしょう。

 大相撲においても白星は重要です。
 負け越してばかりでは、あっという間に番付が下がってしまいますし、高いスキルをベースとした取り口が、お客様にエンターティンメントを提供することは間違いありません。

 一方で、「何をやってもいいから勝てば良い」というのは、違うのでしょう。

 アマチュアスポーツにおいては「勝利は至上命題」なのでしょうが、プロスポーツにおいては「面白いこと、楽しめること、が至上命題」なのではないかと考えます。

 加えて、我が国、日本においては、「卑怯な手段で勝つ」というのは、最も嫌われることなのです。卑怯な手段で勝つくらいなら、正々堂々と負けた方が良い、とさえ考えられるのかもしれません。(勝利至上主義のアマスポーツにおいても、「卑怯なプレー」は決して正当化されないことは、皆様ご認識の通りです)

 卑怯な手段を用いることは「恥」だという文化。「恥」を背負い、社会を構成する他の人達から「後ろ指を指されながら生きる」ことを、最も嫌う文化。

 大袈裟に言えば、炎鵬関の相撲は「日本文化そのもの」なのかもしれません。

 今日の土俵においても、炎鵬は大歓声に包まれて土俵に上がるのでしょう。

 
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