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HOME   »   競馬  »  [競馬コラム14] セントレジャー・ステークスと菊花賞
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 我が国のクラシックレースのシーズン掉尾を飾るレースが、菊花賞競走です。今年は、10月21日に、例年通り京都競馬場芝外回り3000mコースにて開催されます。淀の京都競馬場では、様々なレースが開催されますが、やはり「菊花賞」と「天皇賞(春)」の2つの長距離レースが、最も京都競馬場に相応しいレースのように思います。

 1938年に設立された菊花賞のモデルとなったレースは、イギリスのクラシックレースのひとつである「セントレジャー・ステークスS」であることは有名な話です。セントレジャーSは、5つのクラシックレースの中で最も古い歴史を持っています。

 それぞれのクラシックレースの第一回が開催された西暦年を記します。
・1000ギニー競走 1814年 3歳牝馬限定
・2000ギニー競走 1809年 3歳牡馬牝馬限定*
・オークス競走 1779年 3歳牝馬限定
・ダービー競走 1780年 3歳牡馬牝馬限定
・セントレジャー競走 1776年 3歳牡馬牝馬限定

(*サラブレッドの生産推進・能力判定のためのレースであることから、当初からセン馬(去勢された牡馬)の出走は認められていません)

 セントレジャーSは、サラブレッドのスタミナを測るためのレースですから、クラシックレースの中で最も距離が長く、イギリスのドンカスター競馬場14ハロン132ヤード(約2932m)で行われています。設立された1776年から1812年までは16ハロン(約3200m)のレースでしたから、200年前に少し短くなりました。

 現在では世界中の主要な競馬で、2000m前後のレースが大半を占めるようになりましたが、20世紀の初頭までは、スピードとスタミナを併せ持つサラブレッドが最上とされていましたので、現在でいうところの長距離レースが多かったのです。

 例えば、現在全世界で走っているサラブレッドの90%以上の祖先と言われているエクリプス号は、1769年から1770年の競走馬生涯で18戦18勝の成績ですが、この18戦の内16戦は4マイル(約6400m)のレースです。一番短いレースが2マイル(約3200m)、残る1レースが3マイル(約4800m)ですから、2000m前後のレースは走ったことが無いことになります。

 加えて、18戦の内、7戦が「ヒートレース*」と呼ばれる、先に2勝あるいは3勝した方が勝ちというレースでした。エクリプスは、その7戦いずれも2勝先取のレースを2回の競走で勝っていますが、例えば4マイルのレースを2回であれば、12800mを1度のレースで走ることになりますので、本当にスタミナ勝負のレースばかりだったということになります。(*18世紀半ばまで、貴族同士の競馬などで採用されたレース形態のこと。ちなみに、ヒートレースで僅差の場合には同着とされて「デッドヒート」と呼ばれました。現在、接戦のことをデッドヒートと呼ぶのは、ここから来ています。意味は少し違いますが)

 18世紀の競走馬は、現在の基準でいえば「スタミナ」が物凄くある馬が強いとされていたわけです。こうした、長距離に強い馬の子孫が、現在では主に1600m~2000mのレースを競い合っているというのは、ある意味では不思議なことです。18世紀前半~半ばにかけて2000m前後の距離のレースが開催されていて、その勝ち馬が始祖として残っていたら、現在のサラブレッドの血統地図は、大きく異なるものになっていたかもしれません。

 とはいえ、エクリプスが走っていた時期から10年後には、ダービー・ステークスやオークス・ステークス(両方とも約12ハロン、約2423m)が開始されていますので、イギリスにおいても、当時でいうところの「短距離2400mのレース」が増えてきたということになります。
 そして、その短距離レースで競い合い、勝利を収めた馬の子孫を選別・交配していった結果として、エクリプスの子孫ばかりが残ったのですから、エクリプス本人というか本馬?は3200m未満のレースは未経験だったけれども、その子孫は2400mあるいはそれ以下の距離のレースにおいても好成績を収めたことになります。これは先程とは別の意味で、不思議なことと言えるでしょう。

 さて、そのセントレジャーSをモデルとして、我が国において1938年に「京都農林省賞典4歳呼馬」の名称で設立されたレースが、現在の菊花賞競走であることは、以前の本ブログでも書きました。距離は、2932mではなく3000mとし、ほぼ一貫して京都競馬場にて実施されて来ていますので、競走馬能力の個別比較、時代を追っての比較にも好適で、その点からも意義深いレースです。

 本家のセントレジャーSは、競馬レース全体の短距離化に伴い、英国ダービーを制した馬が殆ど出走しなくなったために、残念ながらその重要性・地位が著しく低下してしまいました。英国競馬において、最後の三冠馬は1970年のニジンスキー号ですから、40年以上三冠馬は出ていません。
 今年2012年、久しぶりに2000ギニー、ダービーの二冠を制したキャメロットがセントレジャーに挑戦し、惜しくも2着に終わったことは、別稿にて記載の通りです。

 「距離が長すぎるセントレジャーには、ダービー他の大レースを制した馬は挑戦しない」と言われて久しいのですが、今年のキャメロットの挑戦をみても解るように、この20世紀終盤から言われてきた「常識」が、見直されつつある、つまりセントレジャーSも、歴史あるクラシック競走として、長距離G1競走として、再評価されつつあるように思います。

 「再評価」の動きの最たるものは、3歳牝馬の挑戦です。1988年から2011年の間、牡馬の英国クラシックレース勝ち馬は、1頭もセントレジャーSに挑戦していませんが、牝馬の同クラシックレース勝ち馬は6頭(オークス馬5頭、1000ギニー馬1頭)が挑戦し、1頭が勝っています。

 凱旋門賞の稿でも述べましたが、ロンシャン競馬場2400mの厳しいレースを、2年連続で牝馬が制し、今年などは4歳牝馬で斤量が大きく恵まれていたわけでも無かったことを考え合わせると、「スタミナが必要なレース」における牝馬の活躍が目立ってきているのです。英ダービー馬キャメロットの挑戦も、こうした3歳牝馬の挑戦実績を踏まえて行われたように思います。
 今、世界の2400m以上のスタミナを要するレースでは「牝馬が元気」ということになります。

 一方、我が国では72回の歴史を誇る菊花賞競走において、牝馬の勝ち馬はクリフジとブラウニーの2頭だけで、それも1947年・昭和22年以前の勝ち馬です。近時は、牝馬の出走自体も殆どありませんので、菊花賞3000mは「男馬のレース」ということになります。
 加えて、我が国では「三冠馬」の市場価値は一向に衰えないので、皐月賞・日本ダービーの春の二冠を制した馬は、夏を順調に過ごしさえすれば、菊花賞に出走してきます。この点も、従来の本場イギリス競馬とは異なる点です。

 ただし、三冠を狙う馬以外の春のクラシックレース好走馬となると話は別で、天皇賞(秋)に3歳馬が出走可能となったこともあって、必ずしも菊花賞には拘らないケースが増えていることも事実です。

 以上の傾向から、近時の菊花賞は、ディープインパクトやオルフェーヴルといった三冠馬が生まれるレースである一方で、2009年スリーロールス、2010年ビッグウィークのように、特別レースを勝ち上がった馬が、いきなりG1菊花賞を制し、その後の重賞レースでは好成績を残せないため、結果として「重賞勝ちは菊花賞のみ」という馬も出てきているのです。

 従って、菊花賞競走のレース予想は難しいものとなっていて、三冠を狙う馬が出走してくれば、当該馬を軸に考えればよいのですが、そうでない年(大半の年)は、条件馬が特別レースを勝ち上がって、初めて重賞レースに挑む場合でも、その中から長距離に強そうな馬を見出して、勝つ馬を予想することになりますから、所謂「荒れるレース」になりやすいのです。

 加えて、2010年からは外国調教馬にも門戸が開放され、国際レースとなりましたので、見たこともない馬が菊花賞に登場することが可能になりました。1着賞金1億1200万円(2011年)は、円高の影響もあり世界的に見ても高額です。日本馬の上がり馬でも十分に勝負になるレースということであれば、海外G1ホースというほどの実績が無い馬でも、今後挑戦してくる馬が増加することでしょう。

 今年の菊花賞には、日本ダービーを制したディープブリランテがキングジョージ6世&QES出走後、ぶっつけで挑戦してくるようですし、皐月賞馬ゴールドシップも長距離に強いとみられる血統(母の父がメジロマックィーン)を背景に出てきますから、春のクラシック馬が登場するという点では、期待が持てます。但し、日本ダービー2着馬で、菊花賞トライアルレース・セントライト記念を制したフェノーメノは天皇賞(秋)に回るようです。

 これに、現時点で賞金1200万円以上の馬なら出走できそうですので、数々の上がり馬が加わって、2012年菊花賞を構成することになります。
 菊花賞の歴史を彩ってきた2つの勢力が激突するという意味で、とても楽しみなレースです。
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菊花賞   セントレジャー・ステークス   ディープブリランテ   ゴールドシップ  
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45
とても魅力的な記事でした!!
また遊びに来ます!!
ありがとうございます。

47
コメントありがとうございます。
また、嬉しいコメントをよろしくお願いします。

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