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HOME   »   陸上競技  »  [100m競走] 手動計時について
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 前稿で、陸上競技100m競走について書きましたが、その際に「手動計時」の話が出てきました。これについて記述すると少し長くなりますので、別稿にしました。手動計時は、1960年代までは、世界的な大会でも行われていた計測方法です。我が国における、全国規模で無い大会でしたら1980年代以降も行われていたと思います。

 「手動計時」は、ストップウオッチを持った人間(計測員)が、目視で記録を測る方法です。以下に記述するのは、陸上競技100m競走、200m競走、400m競走の短距離競走における手動計時のことです。(本稿の記述は、ほとんど私の記憶によるものですので、専門家の方から見ると不正確な部分があるかもしれませんが、その場合にはご容赦ください)

 まず、ゴール横に計測員が配置されます。白い鉄パイプでてきた階段状の器具に、1列2名ずつ座り(これで1組)、段々に上まで8組計16人が座ります。(この他に、順位を判定する係員も、その上段に配置されます)
 階段に縦に2列に座っている形です。計測員1人が1台のストップウオッチを持っています。各組の2名が同じ選手の記録を測ります。
 お分かりになったと思いますが、階段状になっているのは、ゴールするランナーが良く見えるように、ということです。従って、当時の大会はゴール横に大きな白い階段状の器具があり、そこに2列に計測員が座ると「レースが始まる」と分かったのです。

 スタートライン方向を見ると、選手が並んでいます。「位置について」とスターターから号令が掛ります。この時、スターターはスタート用ピストルを持つ腕の肘を曲げています。ピストルは、スターターの耳の横にあります。
 「ヨーイ」と二つ目の号令が掛ります。この時、スターターはピストルを持つ腕の肘を伸ばし、ピストルを高く掲げます。これが大事なことです。適当な間の後、パンとスタートの号砲が響き渡り、選手が一斉に走り始めます。

 余談ですが、「位置について」はハッキリと、各音同じ強さでコールします。「ヨーイ」は、「ヨー」を強く、「―イ」にかけて小さな声にして行きます。選手の精神集中を妨げないためです。

 ゴール横に配置されている計測員は、スタートの様子を観ています。正確には、スターターのスタート用ピストルを凝視しています。計測員がストップウオッチのスイッチを押す(ウオッチを稼働させる)タイミングは、ピストルの号砲を聞いた時ではありません。音速は遅いので、それでは遅れてしまうからです。

 計測員は「ピストルから出る煙を観て」ストップウオッチのスイッチを押すのです。従って、スタート用ピストルは、煙が大きく多く出る構造になっています。大体、ピストルから50㎝位の長さで縦に煙が吹き上がります。そのために、ピストルには雷管を2個、後には簡易な紙雷管(しらいかん)を2枚、セットします。雷管も紙雷管も、煙が十分出る構造になっています。また、雨に強い構造にもなっています。

 スターターが「ヨーイ」の号令とともに、ピストルを持つ腕を高く上げるのは、計測員にピストルが良く観えるようにするためと、計測員に「打つぞ=スタートするぞ」との意思を示し、準備を促すためで、とても大切な動きです。

 スターターは、フライングがあったと判断された場合には、直ぐに2発目の号砲を鳴らします。フライングの有無の判定は、スターターの目視によります。後には、フライングを判定する二人目のスターターを配置し、2発目の号砲は二人目のスターターが鳴らすこともありましたが、多くの大会においては一人のスターターが、スタート動作とフライング対応の2つの作業を行いました。現在、フライング対応はスターティング・ブロック他による機械対応ですから、当時の方がスターターの仕事は多かったことになります。

 さて、ゴールです。

 ランナーがコースを走ってきます。ゴールテープ(当時は短距離競走にもゴールテープが張られていました)を通過する瞬間に、計測員はストップウオッチのスイッチを押して、ウオッチを止めます。
 1組2人の計測員は、お互いの測った記録を比較しあいます。そして、2人の記録が一致していれば、その記録を、2人の記録が違っていたら、その2つの記録の遅い方を、計測対象のランナーの記録として報告するのです。(まれに、1組3人の計測員のことがありました。この場合には、3人の記録の内、悪い方の2人の記録の中間が正式記録になっていたと思います)

 この「手動計時」には、誤差がありました。誤差は、主に2か所で発生します。
第一は、スタートの時です。煙が上がるのを観てから、ストップウオッチのスイッチを押すので、目で確認し手に命令を下す時間分、遅れるのです。
第二は、ゴールの時です。計測員は、ランナーがゴールする前にウオッチを止めてしまうのです。「もう、ゴールする」と無意識に思い込んでスイッチを押してしまう。これは、ある意味では不思議なことなのですが、相当に訓練された一流の計測員でも、ことごとくゴール前にウオッチを止めます。おそらく、人間の生理上の動きなのでしょう。

 第一の誤差も、第二の誤差も、計測員の能力が上がるほど小さくなります。オリンピック・世界大会クラスの、「世界一流の計測員」ともなると、100m競走における2つの誤差の合計は0.1秒程度と言われました。これが、日本全国大会クラスになると0.2秒、普通の大会なら0.3秒くらいの誤差です。現在の電動計時で10秒30の記録が、手動計時だと10秒00になることがあったわけです。

 実は、メキシコ・オリンピックの時の100m競走は、半分電動・半分手動の計時だったのです。確か、スタートが電動で、ゴールが手動だったと記憶しています。ピストルから音は出ますが、煙は出ず、ピストルから計測員のストップウオッチにコードが繋がっていて、ピストルが撃たれると同時に、ウオッチが動き始めます。
 ゴールの時に止めるのは、計測員の手動という形です。ですから、やはり誤差が半分でます。あの時のハインズの記録は、ウオッチ上は9秒90だったので、そこに「世界一流の計測員でも生ずる誤差0.1秒の半分=0.05秒を加算して」9秒95になったものと記憶しています。

 現在は、日本全国レベルあるいは世界レベルの大会は全て電動計時です。フライングも、機械判定します。ゴールは、ゴール板の所にセットされている「1秒2000コマ撮影」のスリットカメラの画像を張り合わせて、ゴール写真を作成し、ランナーの胴体の一部がゴールラインに触れた瞬間をゴールと認定、正式記録が確定します。現在の正式記録単位は100分の1秒です。100分の1秒でも10㎝以上走りますから、近い将来1000分の1秒計時の時代が来るかもしれません。

 ちなみに速報ベースの記録は、ゴール板にセットされている目に見えない壁にランナーが入った瞬間のタイムが自動的に掲示されますので、後に写真を観て修正されることがあります。理屈上、速報タイムと正式タイムは、ほとんどの場合異なるハズなのですが、100分の1秒の範囲内であれば、速報タイムと正式タイムが同じになることもあります。

 かえすがえすも残念だったのは、1998年のアジア大会男子100m準決勝で、日本の伊東浩司選手が素晴らしい走りをみせて1着でゴール、速報タイムが9秒99だったのです。私もテレビで観ていて、「いい走りだな」と思いました。速報記録を見て「やった、日本人初の9秒台!」と大喜びしたのも束の間、正式タイムは10秒00になりました。現在でも、アジア人(モンゴロイド)の最高記録は、この時の伊東選手の10秒00なのです。記録というのは、一度破ると、別の選手も含めて、次々と後に続くものなのですが、突破されないと中々破れないという話の典型です。

 従って、現在の100m競走の計測方法は「電動計時」とはいっても、最後は目視によることになります。張り合わせた写真に、判定員が線を引き、その線の位置のタイムが正式記録となるのですから。例えば、ランナーが右肩からゴールラインを越えたとします。「肩は胴体ではないので」ゴールのタイミングは「肩の位置より少し後ろ」ということになります。その「少し」の線をどこに引くのかは、恣意性が入りうる余地を生みます。

 競泳のゴール判定が、ゴール板へのタッチという明快なものであるのに比べて、競走のゴールには、いまだに曖昧な部分が残っているということになります。
 

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