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HOME   »   サッカー  »  イビチャ・オシム監督を失って、日本サッカーは10年以上遅れてしまったのか(その2)
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 1992年にオシム氏がSKシュトゥルム・グラーツの監督を辞任したのは、盟友でもあったクラブオーナーとの確執が原因とされていますが、おそらくその確執が無ければ、オシムはもうしばらく当該クラブの監督を務めていた可能性が高いのでしょうから、日本に来ることは無かったかも知れません。

 その点から見れば、オシムの来日・ジェフ市原の監督就任は運命的なものだったのかもしれません。

1.「賢く走る」「危険なサッカー」

 ジェフユナイテッド市原の監督に就任したオシムが掲げたテーマが「賢く走る」「危険なサッカー」でした。

 特に「賢く走るサッカー」は、日本においてオシム監督が終始強調していたテーマであったと思います。
 
 「賢く」というところがポイントでしょう。「ただ走る」のでは無いのです。「考えながら走る」と言い換えても良いのではないでしょうか。

 オシムサッカーというと、「ボール保持者を複数のプレーヤーが相当のスピードで追い越して行く」イメージが有ります。
 豊富な運動量を前提として、ボール保持者がパスを出す相手を確保するというか、複数のパスルートを確保することで攻撃のバリエーションを増やし、相手守備陣の対応を難しくする戦術なのでしょうが、世界トップクラスのストライカー=超人的な決定力を持つプレーヤーを持たない日本のチームにとっては、とても効果的な戦術に観えます。

 オシム監督率いるジェフ市原は、本当に良く走るチームでした。それも「戦術的な狙いを持って動き回るチーム」であったと思います。
 有名選手が多数所属しているわけではないジェフが、2003年の1stステージでいきなり優勝争いを演じ、年間通算成績でも3位とクラブ史上最高成績を残したのです。既存の勢力で成績を上げたのは、監督の手腕に負うところが大きいでしょう。
 そして、2005年にはヤマザキナビスコカップで初優勝を果たしました。オシムは、監督をした全てのクラブチームでカップ戦の優勝を遂げています。いわゆる「ビッグクラブ」の監督はやりませんでしたから、発展途上のクラブのチーム力をフルに活かしての優勝であったのでしょう。

 こうした資金と有名プレーヤーが乏しい中での好成績が評価されるのは、ある意味では当然で、2006年にオシム監督は、日本代表監督に就任しました。この時の就任に際しては、まだ決まっていない段階で、当時の日本サッカー協会川渕会長が口を滑らせてしまい、「今、オシムって言っちゃったよね」と笑顔で話していたのが印象的でした。

 「その1」にも書きましたが、川渕会長とオシム監督は1964年東京オリンピックで戦った間柄だったのです。川渕会長にしてみれば「日本代表を託せるのはオシムしか居ない」と考えたのでしょうし、オシム監督の方も代表監督就任は「まんざらではない」雰囲気でした。

 オシム氏のインタビューやマスコミ他への対応は、良く言えば「ウィットに富んでいる」、悪く言えば「皮肉に満ちている」ので、その真意はなかなか掴み難いのですが、少なくともこの時のオシムは、上機嫌であったと思います。オシムは日本が、そして日本代表チームが好きだったのでしょう。

2.高度なトレーニング内容

 「走るサッカー」とはいっても、そのトレーニングにおいて走り込みばかりが目立つことは無かったと報じられています。
 ただし、オシムが指示するトレーニングを実行するためには「走らなければならない」内容であったそうです。ここが素晴らしいのではないでしょうか。「走るサッカー」を身に付けるために、ひたすら走り込むのでは、選手は飽きてしまいますし、効果的ではないでしょう。

 まして「賢く走るサッカー」を目指しているのですから、豊富な運動量を90分あるいは120分確保するための体力・持久力を身に付けるためのハードなトレーニングを行うことは当然として、そのトレーニングの間「良く考える習慣」を実践し身に付ける必要があるのですから、単純なトレーニングなど行われるはずがありません。

 オシム監督の下でトレーニングをしたプレーヤーの多くが「体だけではなく頭も疲れる」と感想を漏らしていたそうですから、オシムの狙いは伝わっていたことになります。

 オシムには有名な「オシム語録」と呼ばれるものが有ります。これは、オシムが様々な場面で述べたコメントを集めたもので、本にもなって出版されているほどです。
 その中に「アイディアの無い人間もサッカーは出来るが、サッカー選手にはなれない」というものがあります。

 考えたプレーが出来なければサッカー選手にはなれないという、皮肉たっぷりのコメントだと思いますが、オシム監督のチームには「考えない・アイディアを持たない」プレーヤーは不要だということなのでしょう。

 また「この選手は肉でも魚でも無い」というものもあります。料理を趣味としていたオシムらしい語録ですが、分かりやすく言えば「何の役にも立たない」ということでしょうか。

 結果として、オシムのチームは「知性のあるサッカーを知っている選手を選んだ」と伝えられています。

 オシムジャパンは
① 90分・120分を走り切れる十分な体力・持久力を保持していることを前提として
② 選手一人一人がアイディアに満ちたプレーを展開することで相手にとって「意外性十分な、危険なチーム」となる

 ことを目指したことになりますが、この目標・考え方は現在でも十分に通用するというか、現在の代表チームに最も相応しいもののように感じられます。

 「運動量とスピードで劣り、いつも足許にボールを欲しがり、スペースに走り込むことも少なく、意外性のあるプレーが不足している」というのは「オシムサッカーの対極に位置するサッカー」でしょう。

1. 高い人間性

 あるゲームで、代表チームの正ゴールキーパーGK川口選手を先発から外したのですが、その理由を聞かれて「・・・川口がどういう振る舞いをするのか見たかった」と応えています。
 そして、その振る舞いが「非常に立派だった」ので、次戦で再び川口選手が先発することとなったそうです。

 これは、身体的運動能力に加えて「高い人間性も保持していなければ立派なプレーヤーにはなれない」という考え方の様に観えます。
 世界トップレベルであった選手時代に1回もイエローカードを受けなかったというオシムの基本的な考え方が見えるような気がします。もちろん、精神と肉体が密接にリンクしていることは言うまでもないことでしょう。

2. 全てのことに真剣に真面目に取り組むこと

 プレーヤーに対して、オシム監督が常に要求していたことがこれでしょう。

 「ライオンに追われたウサギが逃げ出すときに肉離れをしますか?要は準備が足らないのです」という語録にも、この考え方が良く表れています。「一生懸命探すニワトリだけが餌にありつける」という語録もあります。

 そしてこの「真剣に真面目に」という考え方は、マスコミに対しても度々示されています。

 記者から、初めて来日した東京オリンピックから40年経ちましたが、日本サッカーはどう変わりましたか、と聞かれて「大きく成長を遂げていると思う。だが問題は君たちマスコミだ。40年間、全く進歩していないのでは?」と応えています。

 また、マスコミがオーストリア在住のオシムに、2010年ワールドカップに出場する日本代表チームの活躍の可能性・予想について質問したところ、「わざわざそんなことを聞くために(オーストリアまで)来たのか。合宿を観に行けばいい」と一蹴したそうです。要は、自らは合宿も観ていないのに、そんな質問だけするのは不真面目だ、という意味でしょうか。

 オシムはマスコミに対しても「サッカーを真面目に学び、真剣に質問項目を考えるように」と示唆し続けたのでしょう。本当にその通りだと思います。私達素人が聞いていても、呆れるほど無知なマスコミ関係者が散見されますし、何を聞きたいのか分からない質問も度々耳にします。
 いわんや、オシム氏ほどのサッカーの達人に対しては、選手が「賢く走る」のと同様に「賢いインタビューやコメント」が必要なのは当然のことでしょう。

 その意味からは、ひょっとすると「オシム監督を失って日本のサッカーマスコミも10年以上遅れてしまった」のかもしれません。

 新生日本代表チームのハビエル・アギーレ新監督に対して「・・・どんなチームを引き受けても必ず結果を出し、サプライズを起こす。守備のスペシャリストだと言っていい。・・・日本の成長を助けてくれるか注目に値する。・・・」と評価し、「・・・ただし、ザッケローニのやり方とは違う方法だ。アギーレのやり方の定着には時間がかかるだろう。短期的には忍耐が必要だ。・・・」とオシム氏がコメントしたと報じられました。

 オシム氏が2007年11月に日本代表監督を辞めて、もう7年が経とうとしています。この間、オシム氏は度々日本代表チーム、日本サッカーに対してコメントを発しています。有意義な道標として、とてもありがたいことだと感じます。

 2014年のワールドカップを観るにつけ、メッシやネイマール、ロッベンやハメス・ロドリゲスといった大天才プレーヤーが居ない日本代表チームが、世界トップクラスのチームと伍して戦っていくためには「賢く走るサッカー」を実践して行くしかないと感じます。オシム監督が掲げたテーマは現在でも活きているのでしょう。

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