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HOME   »   競馬  »  [競馬コラム120] イギリスのクラシック三冠
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 2014年5月8日の稿に書きましたように、近代競馬の発祥国イギリスでは、1800年代前半に「5つのクラシックレース」の概念は固まっていましたが、「三冠」という概念は無く、その概念は1930年代以降アメリカ競馬から導入されました。

 1000ギニー(牝馬限定)、2000ギニー、オークス(牝馬限定)、ダービー、セントレジャーという5クラシックレースが、1814年の最も後発!のクラシックレース・1000ギニー競走の誕生と共に成立し、以降200年の間3歳競馬の主軸として存在してきました。

 結果として、3歳牡馬にとっては出走出来るレースが2000ギニー・ダービー・セントレジャーに限られますから、後に付けられた概念として「牡馬三冠レース」ということになります。

 一方3歳牝馬は、5つのレース全てに出走することが出来ますが、時代により異なるとはいえ、1000ギニーと2000ギニー、オークスとダービーは、レース間隔が短いので、全てのレースに出走するというのは、容易なことではありません。(全レースに出走した牝馬が存在するところは、さすがです)
 こうした点から、1000ギニー・オークス・セントレジャーが「牝馬三冠レース」に位置付けられるようになったのでしょう。

 牡馬三冠は、日本の皐月賞・日本ダービー・菊花賞と同じ(イギリス・クラシックレース体系を範として創立されたレースが)形ですが、牝馬三冠は、かつては桜花賞・オークス・エリザベス女王杯であり、現在では桜花賞・オークス・秋華賞となっていますから、イギリスとは異なる体系ということになります。

 やはり、イギリスでは「5つのクラシックレース」に重きを置く体系ですので、クラシックレースではない「エリザベス女王杯」や「秋華賞」を三冠レースに加えるという概念が存在しないのでしょう。
 3歳競馬のクラシックレース体系構築に際して、イギリスに範を取った日本が、「牝馬三冠」だけはイギリスと異なる形をとっている(どちらかというとフランスに近い)のは、少し不思議なことです。

 さて、イギリスの牡馬三冠馬はこれまで計15頭です。

 最初の牡馬三冠馬となったのは、1853年のウエストオーストラリアン号。前述の通り、この頃イギリスには三冠馬という概念がありませんでしたから、1930年以降になって、遡って「初代三冠馬」の称号が与えられたことになります。

 2頭目は1865年のグラディアトゥール号、3頭目は1866年のロードリヨン号と続きます。そして、戦時の三冠馬と呼ばれる1915年から1918年の間の3頭を加えた13頭が、いわゆる「三冠概念が登場する以前の三冠馬」(変な言い方ですが)となります。

 そして、三冠概念が登場して以降の三冠馬、つまり3レース最後のセントレジャー競走を優勝した瞬間に「三冠馬」と呼ばれたのは、1935年のバーラム号と1970年のニジンスキー号の2頭です。たった2頭しか居ないのです。

 イギリスの牡馬三冠馬は、1936年以降2014年までの78年間で、ニジンスキー1頭しか存在しないのです。そして、ニジンスキー以降44年間登場していません。
超難関であることがよく分かります。

 現代競馬において、イギリス・クラシックレース牡馬三冠達成が難しい理由は

① 競走馬全体のレベルが上がり、突出した実力を持つ馬が現れにくくなったこと。
 1936年以降激減したことを見れば、最大の要因であることは明らかです。

② 距離1600mの2000ギニーと同2400mのダービーと同2940mのセントレジャーを全て勝つことは、血統面から難しいこと。
 これは、本質的には①と同じ理由となります。マイルから3000mまでの3レースを勝つことはとても難しいことですが、「だから三冠」であるとも言えます。

③ 近時は「中距離に特化した血統」が重宝されること。
 この点は、大きな影響が在ると思います。開催されるレースが多く重賞競走も多い1600mから2000mのレースで最も力を発揮する血統が重要視されるようになったため、2400mのダービーより長い距離のレースに「極端に不向きな馬」が増えたのです。
 これは、イギリスのみならず世界的な傾向でしょう。

 一昨年2012年、ニジンスキー以来の三冠に挑戦したサラブレッドが登場しました。キャメロット号です。キャメロットは2000ギニー・ダービーを制して、敢然とセントレジャーに挑戦してきました。

 「敢然と」と申し上げたのは、ニジンスキー以降のイギリス牡馬二冠馬(2000ギニー・ダービーの勝ち馬)は、セントレジャーに挑戦しない例が続いたからです。
 1989年のナシュワン号はセントレジャーを回避し、フランスの凱旋門賞を目指しましたが途中で引退、2009年のシーザスターズ号も凱旋門賞を目指し、こちらは見事に優勝して、3歳時に2000ギニー・ダービー・凱旋門賞の制覇を成し遂げました。

 このように、牡馬二冠を制した馬が「長すぎる」セントレジャーを回避し続ける中、キャメロットは「敢然と」挑戦してきたのです。私は、喝采を送ったものです。
 しかし、惜しくも2着。ニジンスキー以来の三冠馬誕生は、またもお預けとなってしまいました。

 ダービーを5馬身差で圧勝し、5戦全勝・圧倒的な一番人気での挑戦でしたが、ゴール前先行するエンケ号との1~2馬身差をなかなか詰められないキャメロットの走りを観たとき、「確かに血統は存在する」と感じました。

 近年、2000ギニー・ダービーの二冠馬自体が減少傾向にあり、たとえ当該二冠を制したとしてもセントレジャーを回避するケースが多くなっていますから、イギリス牡馬三冠馬が生まれる可能性は、相当低いと言わざるを得ません。

 一方、イギリスの牝馬クラシック三冠は、牡馬とは少し様相が違います。

 前述のように、牝馬三冠は1000ギニー・オークス・セントレジャーの3レースですが、三冠馬は9頭います。
 第一印象として、「多い」と感じます。日本競馬に置きかえれば、桜花賞・オークス・菊花賞の三冠馬が9頭も存在することになります。ちなみに、我が国には1頭も居ません。

 最初の三冠牝馬は、1868年のフォルモサ号です。我が国の明治元年に当たる年です。第二次世界大戦後(1945年以降)にも、1955年のメルド号、1985年のオーソーシャープ号の2頭が達成しています。

 つまり、イギリスでは牝馬がセントレジャー(2940m)に挑戦することが珍しくないということになります。
 それどころか、1977年のダンファームライン号や1983年のサンプリンセス号は、オークスとセントレジャーの二冠馬となっているのです。

 加えて、3歳牝馬のみが5つのクラシックレース全てに出走できるという特権?を活かして、牡馬並みの活躍や、牡馬では決して出来ない活躍を魅せる「女傑」も登場します。

 1882年、牝馬ダッチオーバー号は2000ギニーとダービーを制してセントレジャーに挑戦しました。牡馬三冠を目指したのです。皮肉なことに、セントレジャーでは牝馬に敗れ、三冠はなりませんでした。この年の、イギリス3歳牡馬は、牝馬パワーの前に形無しといったところです。

 また、1868年の初代牝馬クラシック三冠馬フォルモサと1902年の牝馬三冠セプター号は、共に2000ギニーにも優勝していますから「四冠牝馬」ということになります。
 セプターは、ダービーにも挑戦しましたが惜しくも4着に敗れ、クラシックレース五冠・全制覇はなりませんでした。とはいえ、セプターは「全クラシック5レースに出走した唯一のサラブレッド」という、今後到底破られそうも無い栄誉を保持しています。

 最近の凱旋門賞などで見られる牝馬の健闘を考え合わせると、2400m以上の長距離に対する適正は、牝馬の方が高いのかもしれません。

 いずれにしても、牝馬によるセントレジャー挑戦は続いていますから、イギリス牝馬クラシック三冠馬は、今後も登場してくる可能性があります。

 イギリスの牡馬・牝馬両方のクラシック三冠を見てきましたが、牡馬が1970年、牝馬が1985年以降、三冠馬は現れていませんから、現代において「三冠馬」となることは、大変な難関ということになります。

 加えて、ヨーロッパの他の国ではセントレジャー競走に相当するレースが変質していますから、「三冠」概念自体が危機に瀕しています。
 例えば、アイルランド・セントレジャーは4歳以上の古馬に開放されてしまいましたし、ドイツ・セントレジャーはG3に降格の上で古馬に開放されてしまいました。こうした国では、三冠馬を目指すこと自体の価値が低くなっています。

 しかし、さすがにイギリスでは、5つのクラシックレースのひとつとしてのセントレジャーの格式はいまだに保たれています。

 英国クラシックレース体系が守られていく限り、新しい三冠馬誕生の可能性は残されているのです。
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